神殺しのクロノスタシスⅢ
『玉響』を埋葬し、学生寮に戻る途中。

「…分かってると思うけどさー、『八千代』」

「何?」

「俺達の平和って、多分長くは続かないよねー」

「うん、だろうね」

実際、『八千代』が寝返って間もなく、頭領様含め下級暗殺者達が学院に攻め込んできて。

その奇襲が失敗した後、数ヶ月足らずで俺達が暗殺任務を課せられた。

何度も何度も、もう言うまでもないけど。

『アメノミコト』は、裏切り者を許さない。

『八千代』のみならず、俺までもが裏切り。

『玉響』もまた、任務に失敗して命を落とした。

『アメノミコト』でも精鋭とされる『終日組』の三名が、立て続けに敵の手に落ちたとなれば。

ジャマ王国最大のマフィアであり、暗殺専門組織『アメノミコト』の威信に関わる問題だ。

間違いなく、報復に来る。

多分次は、これまでとは比にならない。

今回の俺と『玉響』のように、『終日組』の何名かをこっそり送り込んでくる、とか。

そんな生易しい規模ではないはずだ。

…そのときどうなるかなんて、あんまり考えたくないなー。

「…俺達の身がどうなろうと、それは自業自得だけどね」

「うん」

「でも、俺達の為に、他の誰かが犠牲になるのは、駄目だよね」

「うん」

そこは、お互い意見が一致している。

当然だ。

裏切ったのは、あくまで俺達の身勝手。

だから、俺達がどんな粛清を受けようが、拷問されて殺されようがミンチにされようが、それは俺達の責任。

どーでも良い。

裏切り者は、裏切り者に相応しい罰を受けるのが当然。

それは覚悟してるし、いつそのときが来ても構わ…。

…いや、構うけどさ。

折角、楽しくツキナと園芸部始めたばっかりなんだから。

せめて昨日植えた大根が実り、一緒に収穫するまでは生きていたい。

…とはいえ。

闇に生きるべき宿命を放棄した俺達に、どうせろくな未来はやってこない。

それは分かってる。そんなこと、百も承知で裏切った。

俺達の身は、どうなったって構わない。

だから。

「…ここの人達は、絶対守ろーね」

「うん。守ろう」

即答だった。

…そういえば。

「俺達、初めて意見が合ったね~」

「本当だ。友情の始まりだね」

そんな友情、俺は嫌だけど。

友情なんてものが育つまで、生きていられたら良いね。俺達。
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