神殺しのクロノスタシスⅢ
対策されたんじゃ意味がない。

大体、暗殺者としての訓練を受けてきたとはいえ、まだ年端も行かない、たかだか13歳のすぐりさんでも出来ることなのだ。

すぐりさんは、誰でも出来る訳じゃないと言うけれど。

僕にとっては、それじゃあ誰でも出来るのと一緒だ。

つまり僕の読心魔法は、通用しない。

知ってる人相手には通用しない。

それじゃ駄目なのだ。

「…じゃあ、聞いてみるんですけど」

「んー?」

「その仮面って、ひっぺがすことは出来るんですか?」

「…」

…相手が、対策してくるなら。

こちらも、対策するしかない。

「ひっぺがす…?何でそこまで…」

「だって、あいつの読心魔法使えねー、なんて思われたくないじゃないですか」

「…」

これでも、イーニシュフェルト魔導学院で、教師の端くれをやらせてもらって。

学んで、努力して、会得することの大切さは、身に染みて分かっている。

生徒に出来て、僕に出来ない道理はない。

だから、すぐりさんに協力を申し出たのだ。

「次、また『アメノミコト』から刺客が来るなら、間違いなく僕の読心魔法を対策した暗殺者が来ると思いません?」

「それは…来るかもしれないけど、絶対とは言い切れないと思うよ?だって、何度も言ってるけど、心に仮面を被るなんて簡単なことじゃないんだって…」

「簡単かどうかは関係ない。出来る可能性がある時点で駄目なんです」

「…なんか、俺に読心魔法対策されてから、プライド傷つけられちゃった感じ?」

グサッ。

「…そうですよ、何か悪いですか?」

あなたに慢心とか言われて、僕は満身創痍ですよ。

「悪くはないけど…。それで、俺はどうすれば良いの?」

「訓練に付き合ってください。僕が仮面をぶち破る訓練に」

「出来るの?そんなことが」

出来るか出来ないかじゃない。

やるんだ。

「まー、付き合ってあげるのは良いけど~?」

にやり、と嫌~な笑みを浮かべる花曇すぐり。

育ちの悪い笑顔だ。

人のことは言えないが。

「…人に頼み事をするときは、何かお返しをしなきゃいけないよね~」

「…何が望みですか?」

「そうだな~。うーん。なぁ~ににしよっかな~」

めちゃくちゃ楽しそうで腹立つ。

学内不純異性交遊の疑いで、学院長に書類送検してやろうか。

「ナジュせんせーの科目だけオール10にしてもらっても、たかが知れてるしなー」

案の定、不正行為を考えている。

そもそもそれ、成績審査は僕一人でする訳じゃないから。

別に君の分だけオール10にしてあげても良いが、多分イレースさんの最終審査で落ちるぞ。

そして、バレたら僕の首が飛ぶくらいでは済まない。

まぁ、僕の首はいくら飛んでも、生えてくるから良いのだが。

多分、君も相当怒られると思うよ。

「よし、じゃあ良いこと思い付いた」

…僕は何をしても、失うものは特にないし。

精々イレースさんに黒焦げにされるくらいで、数時間程度でもとに戻るから、別に何でも良いけどさ。

「…それは合法?非合法?」

「んー、ある意味非合法!」

素晴らしい笑顔で、どうもありがとうございます。
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