神殺しのクロノスタシスⅢ
「…ナジュ君…」
「イーニシュフェルトに来たら、僕と毎日顔を会わせることになりますよ。憎い仇と。多分あなたは思いますよ。優しいあなたのことだから。あんな酷いことをしておいて、のうのうと教師をやってるなんて…ってね」
「…」
シルナも、俺も、そして天音も黙り込んだ。
ナジュと天音。二人の間に、埋められない確執があることは知っている。
元々天音は、このナジュに…『殺戮の堕天使』と呼ばれていたこの男に…復讐する為に、ルーデュニア聖王国までやって来たのだ。
家族同然に親しくしていた、村の人々を殺された。
目の前で。残虐にも。
ナジュにもナジュの事情があって、あのときのナジュは、自分の目的…死ぬこと…しか考えてなくて。
それだけで必死だった。精一杯だった。追い詰められていた。
そのことは、天音も知ってる。
一応は、互いに折り合いをつけた仲でもある。
でもだからって、失われた命が戻ってくる訳じゃない。
天音は許すと言ったけれど。
ナジュに対する憎しみが、完全に消えた訳ではないはずだ。
毎日顔を会わせることになれば、それも、ナジュが毎日生徒達の人気者として、日常を謳歌している様を見れば。
また、別の感情が…負の感情が…芽生えてくることもあるかもしれない。
「僕は容赦なく他人の心を読みます。再び僕のことが憎くなったとしても、あなたは隠すでしょうけど。僕に隠し事は無理ですから。あなたがまた僕を憎み始めたら、僕にはすぐに分かる。お互い、憎み憎まれる仲で一つ同じ屋根の下、はキツくないですか?」
…正論だな。
お前がみだりに読心魔法を使うのをやめれば良いだけだろ、と思うかもしれないが。
自分が憎まれてるんじゃないか、と気になったら…読まずにはいられないだろう。
「何なら、僕が聖魔騎士団に行って、天音さんが学院に来て、入れ替われば良いんでしょうけど。僕、回復魔法使えないし。でも生憎、僕が今こうして空の下を歩けるのは、名目上シルナ学院長の監視下にあるからなので…。僕が学院から出ていく訳にはいかないんですよね」
そういえばそうだったな。
それを条件にして、ナジュは檻の中に入れられずに済んでるんだった。
「それに、僕にはいざとなったら、身を呈して生徒の盾になるという奥義があるので、それを捨てるのは勿体ないと言いますか…」
「いや、お前が盾になる必要はないだろ」
あのなお前。自分が不死身だからって。
何回致命傷食らっても生き返るとはいえ、痛覚がなくなる訳じゃないんだろ?
すると。
「…分かってるよ」
天音は、ポツリと呟いた。
「君のことは、もう許してる。今更憎しみなんて…少しはあるのかもしれないけど…。でも、もう君を責めようとは思ってない」
「…良いんですか?本当に」
「うん。それよりも、生徒達を守ってあげたい。今度こそ、僕が…ちゃんと守ってあげたい」
…天音。
「だから、行きます。イーニシュフェルト魔導学院に」
「…僕が目障りになったら、そう言ってくださいね。まぁ、言わなくても心を読めば察するんですが」
「目障りになんてならないよ」
きっぱりと言い切る天音。
「…あなたのその、底無しの優しさと言うか…楽観的思考は…何処から来てるんですか?学院長譲り?」
「生まれつきだよ」
「生まれつき…。はぁ、成程羨ましい」
…一応。
二人の間でも、合意出来たってことで良いんだよな?
「…じゃあ、決まりだね」
「はい。宜しくお願いします。学院長」
…こうして。
正式に、天音がイーニシュフェルト魔導学院の教師になることが決まった。
「イーニシュフェルトに来たら、僕と毎日顔を会わせることになりますよ。憎い仇と。多分あなたは思いますよ。優しいあなたのことだから。あんな酷いことをしておいて、のうのうと教師をやってるなんて…ってね」
「…」
シルナも、俺も、そして天音も黙り込んだ。
ナジュと天音。二人の間に、埋められない確執があることは知っている。
元々天音は、このナジュに…『殺戮の堕天使』と呼ばれていたこの男に…復讐する為に、ルーデュニア聖王国までやって来たのだ。
家族同然に親しくしていた、村の人々を殺された。
目の前で。残虐にも。
ナジュにもナジュの事情があって、あのときのナジュは、自分の目的…死ぬこと…しか考えてなくて。
それだけで必死だった。精一杯だった。追い詰められていた。
そのことは、天音も知ってる。
一応は、互いに折り合いをつけた仲でもある。
でもだからって、失われた命が戻ってくる訳じゃない。
天音は許すと言ったけれど。
ナジュに対する憎しみが、完全に消えた訳ではないはずだ。
毎日顔を会わせることになれば、それも、ナジュが毎日生徒達の人気者として、日常を謳歌している様を見れば。
また、別の感情が…負の感情が…芽生えてくることもあるかもしれない。
「僕は容赦なく他人の心を読みます。再び僕のことが憎くなったとしても、あなたは隠すでしょうけど。僕に隠し事は無理ですから。あなたがまた僕を憎み始めたら、僕にはすぐに分かる。お互い、憎み憎まれる仲で一つ同じ屋根の下、はキツくないですか?」
…正論だな。
お前がみだりに読心魔法を使うのをやめれば良いだけだろ、と思うかもしれないが。
自分が憎まれてるんじゃないか、と気になったら…読まずにはいられないだろう。
「何なら、僕が聖魔騎士団に行って、天音さんが学院に来て、入れ替われば良いんでしょうけど。僕、回復魔法使えないし。でも生憎、僕が今こうして空の下を歩けるのは、名目上シルナ学院長の監視下にあるからなので…。僕が学院から出ていく訳にはいかないんですよね」
そういえばそうだったな。
それを条件にして、ナジュは檻の中に入れられずに済んでるんだった。
「それに、僕にはいざとなったら、身を呈して生徒の盾になるという奥義があるので、それを捨てるのは勿体ないと言いますか…」
「いや、お前が盾になる必要はないだろ」
あのなお前。自分が不死身だからって。
何回致命傷食らっても生き返るとはいえ、痛覚がなくなる訳じゃないんだろ?
すると。
「…分かってるよ」
天音は、ポツリと呟いた。
「君のことは、もう許してる。今更憎しみなんて…少しはあるのかもしれないけど…。でも、もう君を責めようとは思ってない」
「…良いんですか?本当に」
「うん。それよりも、生徒達を守ってあげたい。今度こそ、僕が…ちゃんと守ってあげたい」
…天音。
「だから、行きます。イーニシュフェルト魔導学院に」
「…僕が目障りになったら、そう言ってくださいね。まぁ、言わなくても心を読めば察するんですが」
「目障りになんてならないよ」
きっぱりと言い切る天音。
「…あなたのその、底無しの優しさと言うか…楽観的思考は…何処から来てるんですか?学院長譲り?」
「生まれつきだよ」
「生まれつき…。はぁ、成程羨ましい」
…一応。
二人の間でも、合意出来たってことで良いんだよな?
「…じゃあ、決まりだね」
「はい。宜しくお願いします。学院長」
…こうして。
正式に、天音がイーニシュフェルト魔導学院の教師になることが決まった。