神殺しのクロノスタシスⅢ
園芸部の活動が終わった後。

僕は、内緒の場所(大した場所じゃない。校舎内の空き教室)で。

すぐりさんと、密会していた。

密会という名の、訓練なんだが。

「…で?払うもの先に払ってもらおうか」

すぐりさんの、この高圧的な態度。

ムカつくガキだよ。

そのムカつくガキに頼み事をしたのは、他でもない僕だから。

文句は言えませんがね。

「大体、あなたの予想通りですけど」

「…」

「彼女、口に出して言ってることと、心の中で思ってること、完全に一致してるタイプの人です」

「…そっかー。やっぱりそっか~」

それと。

すぐりさんが、恐らく一番気にしているであろうことを言う。

「で、『すぐりさんのこと好きか』っていう、あの質問の答え」

「うん」

「限りなくラブに近い…ライクです」

「…やっぱりかぁ~。あぁーやっぱりそうなのかぁ~…」

落ち込むすぐりさん。

くにゃくにゃと床にしゃがみこんで、頭を抱えてしまった。

大丈夫?

「ついでに言っとくと、彼女の中で、ラブとライクの間には、越えられない高い壁がありますね」

「あ~あははう~んはぁ~そっか~」

色んな感想をありがとう。

「今日のところは、こんなところですけど」

「…うーん…」

「満足しました?」

「…してるよ…。要するに、恋愛対象としては見られてないってことでしょ?」

「控えめに言って、そうなりますね」

「控えめじゃなくてもそうでしょ」

そんなこと、僕に言われても。

僕の恋愛は充実してるから、片思いしてる君の気持ちは分からないなーあはは。

圧倒的王者の余裕。

それはともかく。

「満足したなら、今度は僕に対価を払ってください」

「あー、はいはい。そうだったね~忘れてたよショックのあまり」

「忘れないでくださいよ」

何の為に、何の興味もない他人の色恋沙汰に、首突っ込んだと思ってるんだ。

「それと、ショックのあまり心に仮面つけられそうにない、ってのもやめてくださいよ」

「あー、無理無理。今俺、ちょーショック受けてるから。あんなに渾身の告白したのに、全然伝わってなかったなんてさー。泣けるよ?泣けるでしょ?」

「いや、僕は特に。自分の恋愛事情は充実してるので」

自分の恋愛事情さえ順調なら、他人の恋愛事情はどうでも良いです。

それより。

「言われた通りやったんだから、ちゃんと対価を…」

「はいはいうるさいうるさい。分かってるよ、約束は守るよ」

「…」

「ちょっと待って。集中するから」

すぐりさんは、しゃがんだまま、くるりと僕に背を向け。

しばし、無言でじっとしていた。
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