神殺しのクロノスタシスⅢ
…。

「…はい、良いよどうぞ」

すぐりさんは、おもむろに立ち上がり。

真っ直ぐに、僕と向かい合った。

それと同時に、僕は彼の心を覗き込んだ。

「…さっきの作業って、どうしても必要なんですか?」

「必要だよ。今だって、物凄く集中してるんだから」

「…それって、本心?」

「さぁね~。俺の心に聞いてみたら?」

…成程ね。

君の心に、その仮面を被った心に、物を尋ねるのは難しそうだ。

僕は昨日、すぐりさんと契約を結んだ。

心に仮面を被られたら、僕の読心魔法は使い物にならない。

故に。

例え心に仮面を被られても、それを無理矢理ひっぺがして、本心を暴く。

その為の訓練として、すぐりさんに付き合ってもらうことにした。

対価は、さっきの恋愛事情だ。

読心魔法の使えないすぐりさんの代わりに、すぐりさんの思い人であるツキナさんの心を読み、

彼女がすぐりさんのことをどう思ってるのか、彼女がどういう人なのかを探る。

下衆な契約だと思っただろう?

僕悪くないから。すぐりさんがドすけべなだけだから。

そりゃ、自分の好きな人が何を考えてるのか、知りたい気持ちは分かるけど。

まさか、それを読心魔法で探らせるとは。

相当下衆だよこの人。

え?常時人の心を読んでは、内心にまにましてた奴の言う台詞じゃないって?

気のせいだ。

それに最近は、みだりに人の心を読むのはやめたぞ。

…怖くなっちゃったからね。

…それはともあれ。

「…めちゃくちゃツキナさんのこと考えてますね」

「まーね。考えてるからね」

すぐりさんの心の中。

ツキナさんのことでいっぱい。

今日のツキナさんが、超嬉しそうにきゅうりの苗を持ってきたとか。

ここに植えるんだよ、ここに支柱を立てるんだよ、と教えてくれたとか。

きゅうりが育ったらどうやって食べようかとか、そんな話をしたこと。

僕にとってはどうでも良い、下心満載の心の中。

…でも。

今なら分かる。

すぐりさんが今、心に仮面をつけていることが。
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