神殺しのクロノスタシスⅢ
…連日、こうして訓練に付き合ってもらってるが。

毎日、すぐりさんはこうして、心に仮面をつける準備をしている。

まぁ、毎回ツキナさんの…好きな人の…話をした後だから、頭の中リセットしなきゃ、切り替えが出来ないだけかもしれないが。

でも、僕の予想では、多分。

反射的に、いきなり心に蓋をしろと言われても、それは出来ないのだ。

つまり、不意打ちで心を覗けば、何人も心を隠す余裕はないってこと。

少なくとも、すぐりさんはそうだ。

それなりの準備をしないと、本心を隠すことは出来ない。

ヴァルシーナの場合もそうなのだろうか?

それは分からないが。

とにかく、今は。

「はい、どーぞ」

「どうも」

すぐりさんの、心の中を覗く。

深く深く、深淵に潜り込む。

連日の訓練のお陰で、僕はこの状態を少しずつ、長く続けられるようになっていた。

何なら、すぐりさんの脈拍や、呼吸音、血の巡りまでもが「見える」。

僕の意識を身体から切り離して、すぐりさんの中に移動させるイメージ。

そうしなければ、心の仮面までは辿り着けない。

そして、辿り着くだけでは駄目なのだ。

肝心なのは、仮面を見つけることではない。

その仮面の裏を見ること。

その仮面を引き剥がすこと。

当然すぐりさんは、それに抗おうとする。

心の蓋が開かないように。

でも僕は、その蓋を開こうとする。

この攻防が、延々と続くのだ。

時間にすれば、僅か数分の出来事でしかない。

だが、僕にとってもすぐりさんにとっても、それは永遠のように長い時間に感じた。

少しでも気を抜けば、お互い崩れてしまいそうになる。

ギリギリの攻防戦。

すぐりさんは慣れたものだ。心の中に鉄壁のような壁を作って。

目眩ましとばかりに、余計な情報を…どうでも良い情報ばかりをぶつけてくる。

この「横槍」は、毎回違うのだが。

今日は、先程のツキナさんの発言が、どうにも気掛かりなようで。

「白馬の王子様ってどうやってなるんだよ」とか、

「王子様が好きってことなのか?それとも馬が好きってことなのか?」とか、

もう、僕にとっては超、くっそどうでも良いことばっかり考えては、僕を邪魔しにかかってくる。

うるせぇ。知るかそんなの。

僕はそんな余計な情報を掻き分けて、すぐりさんが隠している、心の深い部分を手繰り寄せる。

蓋を見つけることは、もう出来てる。

問題は、その蓋をどうやって開けたら良いのか分からないっていう点。

緊張のあまり、脂汗が流れる。ズキズキと頭痛が走る。

それでも僕は離さない。すぐりさんの心の蓋にしがみついて離れない。

すぐりさんもまた、蓋を剥がされないように耐える。

無言の攻防が、延々と続く。

…そして。

「…あー、もう限界っ」

「っ…」

すぐりさんが、心の蓋を自分で外した。

どうやら、彼の「限界時間」らしい。

そうなのだ。

すぐりさんは、五分以上この状態を維持出来ない。

だから僕は、五分以内に彼の心の蓋を、自分から開けさせるのではなく、僕自身が抉じ開けなければならない。

それが出来なくて、ここ数日停滞している。

そして。
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