神殺しのクロノスタシスⅢ
…の、だが。

問題は、令月がこれをどう受け取るかだ。

令月は「一連の事件」で、多少なりとも天音と面識があるから。

他の生徒より先に、天音がイーニシュフェルト魔導学院に赴任することになった、と伝えた。

令月は、「そう」と呟いただけだったけど。

…やっぱり、気にしてるか。

あいつ、なかなか表情が顔に出ないから、分かりにくいけど。

ナジュ相手なら、心の中は丸裸にされるからな。

いくら無表情で隠しても無駄だ。

やっぱり、自分のせいだと思ってるんだな。

自分が『アメノミコト』を裏切り、ジャマ王国を抜け出したから。

その報復を恐れて、天音を赴任させたのだと。

あの馬鹿め。

令月を引き取ることを決めたのは、他でもないシルナであり。

令月はただ脅され、利用されていただけなのだから。

何一つ、令月は悪くないのだ。

裏切った?勝手に言っとけ。

地獄の底に垂らされた糸にすがって、何が悪い。

それは裏切りとは呼ばないのだ。

しかし、令月は無駄に律儀で、おまけに賢いもんだから。

たった一人、教師が増えたってだけで、「あぁ自分のせいなんだな」と思い込んでしまっている。

令月がもう少し、年相応に馬鹿だったら良かったのに。

「…とにかく」

と、シルナが総括した。

「極力、この問題からは令月君を遠ざけておく。こちらからは話題にしないし、あくまでも大人達で解決させるように持っていく」

シルナはずっとこの方針で、これからもそれを曲げるつもりはない。

それは分かってる。

だが。

…どうやったって、どう遠ざけようとしたって。

令月は、事件の渦中に…しかも、ど真ん中にいる。

俺だって、あいつを事件の渦中から遠ざけておけるなら、そうしてやりたいよ。

でも、そう上手く行くかどうか…。

「皆、聞いて」

シルナが言った。

「今夜、下校時刻が過ぎたら、また学院長室に集まって欲しい。これからのことを話したい」

「…分かった」

これからのこと、ね。

天音が来た以上、確かに、すぐにでも話し合った方が良いだろう。

多分俺達に残された猶予は、それほど多くない。

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