神殺しのクロノスタシスⅢ
…リリス。

ナジュの中にいることは知っていたが。

こうして表に出てくるところは、初めて見た。

いや、それよりも。

「ナジュ君があんな風になったのは…私達のせい?」

「…」

リリスの目は、相変わらず俺達を睨んでいた。

あの錯乱したナジュは…毒でも何でもなく…。

「やっぱり…読心魔法のせいなんだ」

「すぐり君…?」

すぐりが、険しい顔で言った。

「…そうよ」

リリスも頷く。 

読心魔法のせいだって?

一体どうなってる?
 
確かに読心魔法はナジュの得意魔法だが、それとこれと、何の関係が。

「リリスちゃん…ナジュ君に、何が」

「何が、ですって?」

シルナの問いに、リリスは睨みつけながら返した。
 
「そんなこと、あなた達もよく知ってるでしょう?ナジュ君のこと…役立たず呼ばわりしたあなた達が」

…は?

「今まで散々ナジュ君の読心魔法に頼っておいて、ナジュ君を肉の壁にしておいて、一度上手く心を読めなかったからって、肝心なとき役に立たないですって?」

いや、ちょっと待って。

何のことだ?

「俺達がいつ、ナジュを役立たず呼ばわりしたよ?」

「白々しいこと言わないで!」

そんな、キレられても。

本当に、覚えが…。

「ナジュせんせーさぁ、俺が心に仮面を被って、読心魔法を阻止したことを気にしてたんだ」

すぐりが、ポツリとそう呟いた。

…何?

「ナジュせんせーがちゃんと心を読めなかったばかりに、『玉響』を殺させてしまったって…。俺が慢心してるって言ったことも気にしてた」

「…」

「俺が、ナジュせんせーの読心魔法の弱点を明らかにしちゃった。それはまぁ…あのときは敵同士だったから…仕方ないと言えば、仕方ないんだけど」

「…」

「それで君達、思ったんでしょ?心の中で。弱点のあるナジュせんせーのこと、役に立たない奴だって」

…何?

「そんなこと、思ってる訳…」

「自覚はしてないんでしょ?聞いたよ。無意識に、心の中で一瞬だけ。『こいつがちゃんと心を読んでたら、こんなことにはならなかったのに』って」

「…それは」

意識して、そんなこと考えたことはなかった。

でも、無意識だったら?

俺達が意識していようとなかろうと、ナジュは俺達の心の隅々まで見通せる。

じゃあ、もしかしてあのとき。

『玉響』を、みすみす殺させてしまったあのとき。

俺達は無意識に、ナジュの読心魔法の欠点をあげつらって。

役に立たない奴だ、と…無意識でも、一瞬でも、心の何処かで、そう思ったってことなのか?

そんなつもりは…全くなかったのに。

< 241 / 822 >

この作品をシェア

pagetop