神殺しのクロノスタシスⅢ
「…そっか、忘れちゃったんだね」

「えっと…僕、どうすれば…」

実感が、あまり湧かないが…。

記憶喪失って、ことだよね?

それってもしかして、いや、もしかしなくても、不味いことなんじゃ、

何だかとても大切なことを忘れてしまっているような…。

しかし。

「良いんだよ、ナジュ君」

「…え」 

リリスは、ぎゅっと僕を抱き締めた。

「あんな人達のこと、もう思い出さなくて良い。忘れたままで良いんだよ」

「え、でも…」

「良いの。あの人達は、ナジュ君を利用して平気な、悪い人達だから…。忘れてて良いの」

…そう、なのか?

彼らは本当に…悪い…。

「ずっとここにいよう?ここで一緒にいよう。現実で目を覚ます必要なんてない。君を失うくらいなら、ここで私とずっと一緒にいてよ…」

「リリス…」

…他ならぬ、愛する人の頼みなのだ。

僕は、条件反射で頷くべきだった。

だけど、僕は僅かに、躊躇ってしまった。

…本当に、忘れて良いことだったんだろうか?

…思い出せない。
 
僕は何を…忘れてしまったんだろう?

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