神殺しのクロノスタシスⅢ
「…何か、問題が?」
 
「問題って…」

問題とか…そういう話ではなく…。
 
聖魔騎士団魔導部隊の、特別な魔導師の医療チームって…。

するとシュニィは、何を思ったか。

「あ、回復魔法の方は、天音さんがいらっしゃるんですよね。勿論、天音さんの方針も取り入れながら…」

あ、いや。

天音を蔑ろにしてるとか、そういう話でもなく。

第一、天音はそんなことを気にする性格ではない。

ずっと自分が看ていたのに、よく知りもしない回復魔導師がいきなりやってきて、自分の治療方針に口を挟むなんて、と。

そんなつまらないことに、腹を立てるような人間じゃない。

むしろ、協力者が増えて有り難いとばかりに、快く迎え入れるはずだ。

しかし、そうじゃない。

「それは…有り難いけど、確かに有り難いけど、良いの…?」

シルナが、呆気に取られながら尋ねた。

「何がですか?」
 
「いや、その…いくらなんでも…」

「大盤振る舞い過ぎないか?ってことだよ」

しどろもどろになるシルナの代わりに、俺が告げた。 

懇意にしているとはいえ、たかだか一学院の、たった一人の教師の為に。

聖魔騎士団魔導部隊の特殊混成医療チームなんて、それこそ国の一大事か。

フユリ様の治療にでも当たるのか、くらいの事態にでもならない限り、有り得ないことだぞ。

俺の知る限り、前例だってない。
   
「聖魔騎士団の人員だって限られてるんだ。貴重な人員を、こちらに回してもらうなんて…」

あまりにも、畏れ多い。

しかし。

「医療チームに編成される魔導師さん達は、快く引き受けてくれましたよ?」

「そ、それは…」

「それに、アトラスさんとも話し合って決めたことです」

「…!」

…聖魔騎士団団長と、聖魔騎士団魔導部隊隊長が話し合って。
 
ナジュの為にそこまでしよう、と…二人で決めたと言うのか。

「確かに、魔導部隊の人員が一時的でも減るのは、私達にとっても痛手です。ジャマ王国の…『アメノミコト』との件も、いつまたぶり返すか分かりません」

「…」

そうだよな。

聖魔騎士団は、ルーデュニア聖王国の国防も担っている。
 
特に今は、ジャマ王国と…『アメノミコト』と睨み合いになっている状況。  

その関係で、国境警備の強化にも注力しているのだ。

そんな大事なときに、大事な人員を、学院に割いてくれるなんて…。
 
いくらなんでも、大盤振る舞い過ぎる。  
 
それなのに…。

「私達は仲間を見捨てません。それに…ナジュさんが戻ってきてくれたら、結果的に『アメノミコト』対策の戦力増強にも繋がるでしょう?そんな打算もあるんですよ」

シュニィは、悪戯っぽく笑ってみせたが。

それが単なる建前に過ぎないことは、言うまでもなかった。
 
「だから、気にしないでください。ナジュさんがまた学院に復帰するまで、一緒に頑張りましょう」

「シュニィちゃん…。ありがとう」

…全く。

シュニィと、そしてアトラスの好意には、感謝しかない。

一生頭が上がらないな。
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