神殺しのクロノスタシスⅢ
イレースに、医療チーム受け入れの準備を頼むと。  

イレースは、特にあれこれ聞くことなく頷き、すぐさま取り掛かってくれた。
 
こちらもさすが、話が早くて助かる。  

そして。
 
こちら、医務室では。
 
「ご無沙汰してます、天音さん」

「久し振りだね、クュルナさん…。今回は、協力ありがとう」

医療チームのリーダーに任命されたクュルナと、我がイーニシュフェルト魔導学院の養護教員、天音が対面した。  

予想通り、天音は聖魔騎士団から医療チーム派遣の話を聞いても、嫌な顔一つせず。
 
むしろ喜んで、協力を取り付けた。  

「早速で申し訳ないのですが、今のナジュさんの状態を、出来る限り詳細に教えて頂きたいのですが…」

「勿論。口頭での説明に加えて、一応カルテを作ってまとめてあるから、これをコピーしてメンバーの皆さんに配ってもらえたら」

「では、それは私が」

イレースがすかさずカルテを受け取り、職員室に向かった。  

仕事が早い。

「それでは、まずは彼が意識を失った経緯から聞かせてもらえますか。大体のところは把握していますが…。読心魔法の暴走、でしたか」

「…そうだね。本人の口から聞いた訳じゃないから、憶測も入るけど…」

天音は、ナジュが倒れるまでの経緯を、クュルナに話して聞かせることにした。
 
「まず、そもそものきっかけは…」

「俺だよねー」

「!?」

突如として聞こえた声に、俺達は医務室の入り口を凝視した。
 
すると、そこには。

「やぁ」

「こんばんは」

「お前ら…」

令月と、すぐりだった。

さすがは元暗殺者。気配の一つも感じなかった。

「…夜間外出禁止。イレースに怒られるぞ」

こんな時間に、まーた学生寮から抜け出して。 

不良生徒共め。

「いやー、そうなんだけどさー。な〜んか、下校時刻も過ぎたのに、怪しい人影がうろちょろしてるのが見えちゃって」

「前、学院襲撃されたときに見た人達が来たから、多分不死身先生のことで来たんだろうと思って」

「あ、そ…」

そういうところの「目」と「耳」の良さは、俺達よりお前らの方が上かもな。

「…で、実際ナジュせんせーのことなんでしょ?」

「…そうだよ」

「じゃー、俺もいなきゃ駄目じゃん。俺達に内緒で事を進めようなんて、そうは問屋がおろさないね」

…やれやれ。

子供達は巻き込むまいと思ってたのに…。

すると、そこに。

職員室でカルテのコピーを取っていたイレースが、医務室に戻ってきた。

二人の生徒の姿を見て、露骨に顔をしかめていた。 

「…あなた達。今何時だと思ってるんです。子供は帰って寝なさい」

「大丈夫。職業柄、夜更しは慣れてる」

「むしろ夜の方が活動的になるタイプだから」

夜行性か、お前らは。
 
「今すぐ帰りなさい…と言いたいところですが、否が応でも首突っ込んでくるでしょうね、あなた達は」
 
「うん」

「まーね。追い出しても良いけど、また戻ってくるよ?侵入や潜入は、得意中の得意だしね〜」

はいはい。

「…仕方ない、イレース。入れてやれ」

「…やれやれですね、全く」

まぁ、こいつらも無関係って訳じゃない。
 
むしろすぐりは、当事者の一人だし…。

クュルナに説明するには、いてもらった方が良いのかもしれない。

「…羽久さん。この人達…片方は先日お会いしましたが、もう一人は…」

と、尋ねるクュルナ。
 
そうだな。クュルナは…すぐりと会うのは初めてだったな。

「紹介するよ。ナジュが倒れるきっかけの一人…。ジャマ王国『アメノミコト』から来た、イーニシュフェルト魔導学院二人目の、元暗殺者生徒だ」

「宜しく〜」

そのときのクュルナは、さすがに驚いた顔だった。
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