神殺しのクロノスタシスⅢ
『アメノミコト』は、聖魔騎士団とは違う。

互いに自分の実力や能力を教え合い、連携を取る聖魔騎士団とは違い、

『アメノミコト』は、あくまで個人の実力は個人のもの。

例え仲間内であろうと、みだりに教え合ったりはしない。

情報統制。

組織の中でも、情報統制が敷かれているのだ。

ましてや令月は、実行部隊だ。

暗殺をする為の、駒としか扱われていなかった。

盤上の駒に、駒を動かす持ち主の意思など、知る必要はない。

隣に並んでいる駒の役割も、位置も、知る必要はない。

駒の能力や位置なんて、駒を動かす者だけが、知っていれば良いのだから。

「何人かは知ってる…。でも、全員は知らない。お互いに…どんな能力があるのか、何人いるのか…。名前すら知らない。コードネームで呼び合ってたから」

「…そこまでするか…」

つまり、令月レベルの暗殺者が、他にもうようよいたとしてもおかしくないってことか。

そりゃ不安にもなる。

「でも、先日の襲撃のとき、『アメノミコト』の頭領は最初、令月さんに『戻ってこい』って言ってましたよね」

と、天音。

「言ってたな、そんなこと」

今なら許してやる~とか、上から目線なことをうだうだと。

「それはつまり、『アメノミコト』の中でも、令月さんクラスの暗殺者は、重宝されてたってことなのでは?」

「あ、そうか…」

そうだよな。

令月レベルの暗殺者が、そんなにうじゃうじゃいてたまるか。

『アメノミコト』でも、令月は大変優秀な暗殺者だったのだ。

少なくとも、頭領が自ら「戻ってこい」と言うほどに。

それはつまり、令月が得難い優秀な暗殺者だったという証。

貴重な戦力の一人だったのだ。

もし『アメノミコト』に、令月レベルの暗殺者がうじゃうじゃいるのだとしたら、わざわざ「戻ってこい」とは言うまい。

あっさり切り捨て、他を用意すれば良いだけの話。

それをしなかったってことは、やはり令月レベルの暗殺者は、『アメノミコト』でも数少ない貴重な人材なのだ。

何人くらいいたのか…。五人か、十人か…。

それに、そんな貴重な戦力なら、全員を裏切り者の討伐に向かわせる訳にはいくまい。

自分の身辺の警護だって、させなければならないのだから。

なら、攻めてくるのは何人だ…?

多分、そんなに多くはないはずだ。

そもそも『アメノミコト』は暗殺集団なのだから、徒党を組んで、大勢で攻め込んでくることは考えにくい。

とはいえ、先日の襲撃のこともあるし、あまり楽観視は出来ないか…。

成程、令月が心配する訳だ。

敵の能力も、人数も、いつ攻めてくるのかも分からない。

不安になるのも当然だ。

だが。

「…心配しなくて大丈夫だよ、令月君」

シルナは、優しく令月の頭に手を置いた。


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