神殺しのクロノスタシスⅢ
僕は精神世界の中で、ずっとその声を聞いていた。
そして、見えるのだ。
小さな断片のような光景。
多分、何処かの学校の風景。
教室があって、そこに生徒がいて…。
何処か見覚えのある人が、教壇に立っていて…。
かと思えば、また別の部屋。
ケーキやティーカップを机に並べて、皆でそれを囲んでて…。
何かを話してる。楽しそうに。
僕はそれを…ずっと眺めてる。
遠くからその様子を、一人で眺めていたら。
やがて彼らが振り向いて、笑顔で僕を呼ぶのだ。
手招きして、「君もこっちにおいでよ」って。
そこはまるで、僕が帰るべき家のような場所で…。
つい、足を踏み出してしまいたくなるのだ。
そんな、甘い夢。
本当なのか嘘なのか分からない、僕に都合の良い夢。
あの景色は、一体何なんだろう。
何だかとても懐かしく思えて、思わず手を伸ばしてしまいそうになって…。
…しかし。
「…駄目だよ、ナジュ君」
「…リリス…」
僕が伸ばしかけたその手を、リリスが阻むように掴んだ。
「君はここにいるの。ここの方がずっと幸せで、ずっと安全なんだよ」
「…」
そう。
リリスがそう言うから、僕はずっと、あの声を無視してきた。
あの、夢みたいな景色に手を伸ばすのも躊躇っていた。
だって、そこがどんなに温かく見えても。
それが本当に温かい場所なのか、触ってみなければ分からない。
第一。
僕にはあの人達が何者なのか、僕にとってどういう関係の人達なのか、一切分からないのだから。
「あれはまやかしなの。本当にしつこい奴ら。ここまでしてナジュ君を騙して、連れて行こうとしてる」
「…」
「ねぇ、ナジュ君。あの人達、優しい顔してるでしょ?」
「…そうですね」
優しい顔をしてる。優しい声をしてる。
思わず、近寄りたいと思ってしまう。
「だから騙されるの。前もそうだった。あの人達が、あの笑顔で騙して、ナジュ君を利用して、無理させて、壊した」
「…」
「ああして幻覚を見せるのは、ナジュ君が便利だから。便利な道具を取り戻したくて、あんなことしてるの」
便利な…道具。
そうなのか?僕はあの人達にとって、ただの便利な道具なのか。
あの人達は、その便利な道具を取り戻す為に、ここまでするのか。
僕には分からない。
僕に分かるのは、リリスが僕に嘘をつくはずがないってことだけだ。
だから、リリスの言うことを信じるべきなのだ。
それなのに。
それなのに、何故だろう。
僕は堪らなく、あの場所に心を惹かれてしまうのだ。
そして、見えるのだ。
小さな断片のような光景。
多分、何処かの学校の風景。
教室があって、そこに生徒がいて…。
何処か見覚えのある人が、教壇に立っていて…。
かと思えば、また別の部屋。
ケーキやティーカップを机に並べて、皆でそれを囲んでて…。
何かを話してる。楽しそうに。
僕はそれを…ずっと眺めてる。
遠くからその様子を、一人で眺めていたら。
やがて彼らが振り向いて、笑顔で僕を呼ぶのだ。
手招きして、「君もこっちにおいでよ」って。
そこはまるで、僕が帰るべき家のような場所で…。
つい、足を踏み出してしまいたくなるのだ。
そんな、甘い夢。
本当なのか嘘なのか分からない、僕に都合の良い夢。
あの景色は、一体何なんだろう。
何だかとても懐かしく思えて、思わず手を伸ばしてしまいそうになって…。
…しかし。
「…駄目だよ、ナジュ君」
「…リリス…」
僕が伸ばしかけたその手を、リリスが阻むように掴んだ。
「君はここにいるの。ここの方がずっと幸せで、ずっと安全なんだよ」
「…」
そう。
リリスがそう言うから、僕はずっと、あの声を無視してきた。
あの、夢みたいな景色に手を伸ばすのも躊躇っていた。
だって、そこがどんなに温かく見えても。
それが本当に温かい場所なのか、触ってみなければ分からない。
第一。
僕にはあの人達が何者なのか、僕にとってどういう関係の人達なのか、一切分からないのだから。
「あれはまやかしなの。本当にしつこい奴ら。ここまでしてナジュ君を騙して、連れて行こうとしてる」
「…」
「ねぇ、ナジュ君。あの人達、優しい顔してるでしょ?」
「…そうですね」
優しい顔をしてる。優しい声をしてる。
思わず、近寄りたいと思ってしまう。
「だから騙されるの。前もそうだった。あの人達が、あの笑顔で騙して、ナジュ君を利用して、無理させて、壊した」
「…」
「ああして幻覚を見せるのは、ナジュ君が便利だから。便利な道具を取り戻したくて、あんなことしてるの」
便利な…道具。
そうなのか?僕はあの人達にとって、ただの便利な道具なのか。
あの人達は、その便利な道具を取り戻す為に、ここまでするのか。
僕には分からない。
僕に分かるのは、リリスが僕に嘘をつくはずがないってことだけだ。
だから、リリスの言うことを信じるべきなのだ。
それなのに。
それなのに、何故だろう。
僕は堪らなく、あの場所に心を惹かれてしまうのだ。