神殺しのクロノスタシスⅢ
…誰なんだろう、あの人達は。

どうしてあんなにも、僕を呼ぶのだろうか。  

何で諦めないんだろう。  

あの人達にとって、僕は何なんだろう。

リリスは、彼らは僕を単なる便利な道具扱いしていると言った。

僕がリリス以外の記憶をなくしてしまったのも、彼らのせいなのだと。

だから戻ったら、きっとまた、彼らは僕を利用する。

…でも、じゃあ。

僕にとってあの人達は、何だったんだろう?

「…ねぇ、リリス」

「何?ナジュ君」
  
「僕が本当に道具なら、何であの人達は、まだ僕を諦めないんでしょう」

「…それは…」

僕が目覚めなくなってから、どれだけの時が過ぎた?  

一週間?一ヶ月?
 
それとももっと過ぎたか?
 
分からない。覚えてない。

でも、決して短い時間ではないはずだ。

それなのに彼らは、未だに僕を諦めてない。

本当に僕が単なる道具なら、使えないと判断して、とっくに見捨ててるんじゃないのか?

だって、使い物にならない道具を、いつまでも持っていたって仕方ないじゃないか。

なら、壊れた道具はさっさと捨てて、忘れてしまえば良いんじゃないのか?

それなのにあの人達は、いつまでたっても諦めない。
 
何とかして僕を呼び起こそうと、手を変え品を変え…。

単なる道具に、そこまでするものか?

「それは…ナジュ君が、本当に便利だったからだよ」

リリスは、僕から目を逸らして答えた。

「便利なだけじゃなくて、珍しい道具だったから、替えが効かないの。それであんなに躍起になって、ナジュ君を目覚めさせようとしてるんだよ」

「…」

…そうなのか。

…本当に?

いや、リリスは僕に嘘はつかない。リリスの言ってることは事実だ。

僕が、替えの効かない珍しい道具だから。だから、壊れても捨てずに、必死に治そうとする…。  

…でも、何で、それじゃあ。

僕はあの人達が必死になっている様を見て、こんなに胸が苦しくなるのだろう。

分からない。記憶がないから。

もしかして。

もしかして、僕は。

あの人達が、僕を単なる道具としか思っていなかったとしても。

僕はあの場所で、幸せだったんじゃないのか?

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