神殺しのクロノスタシスⅢ
「…ナジュ君…」

「リリスが嘘をついてると思ってるんじゃないですよ。きっと帰ったらまた、僕は便利な道具として使われるんでしょう…」

あの優しさや温かさは見せかけで、本当は僕のことなんて、何とも思ってなくて。  

ただ僕の力が必要なだけなのかもしれない。  

それでも、僕は…。

呼ばれてる。応えたい。その声に。
 
「…戻っても、ナジュ君はあの人達のこと、覚えてないんだよ?」

「…」
 
…そうだった。

「ナジュ君が目覚めても、記憶がないって知られたら、捨てられるかもしれないよ。もう用済みだって」

「…」

「捨てられなくても、きっとナジュ君が記憶を取り戻せるように、色々手を尽くしてくるよ。そうしたらナジュ君は、思い出したくないことまで思い出して…」

…へぇ。

「僕には、思い出したくない過去があるんですね」

「…!それは」

リリスは、自分の失言に気づいたらしく。

一瞬、口をつぐんだ。

やっぱり、そうなんだ。
 
覚えてないだけで、やっぱり僕には、思い出したくないものがあるんだ。

…そうだと思った。

「…辛い記憶ですか。悲しい記憶ですか?」

「…」

「きっとどちらもなんでしょうね。でも…」

…安心した。  

思い出したくない過去があるってことは。
 
「きっと、思い出したい記憶もあるんでしょうね」

リリスと過ごした、幸せな日々のように。
 
僕にとって大切な、かけがえのない記憶もあるんだ。

そしてそれは、きっとあの人達と共に、あの場所で得たものなんだ。

ここじゃない、あの場所でしか得られなかった幸せな記憶…。

それを、取り戻す為には…。

「…聞こえるんです、僕。あの人達の心の声が」

遠く離れていても。

意識がなくても。

でも僕は、彼らの心が読める。聞こえる。
 
おかしな話だ。

僕は相手の目を見なければ、読心魔法は使えないはずだったのだが。

それなのに、何故か今は、彼らの心の声が届く。  

「お願いだから戻ってきてって…。必ず帰ってくると信じてるって…」

ただの道具相手に、そんな風に思うだろうか?

本当に利用しようとしているだけなら、こんなにも強く願うだろうか。

「ナジュ君…」

「だから僕も…信じたい。応えたい。帰りたい…。こんなにも強く、僕を信じてくれている人達のところに」
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