神殺しのクロノスタシスⅢ
…精神世界を出たからって、リリスを捨てる訳ではない。

リリスを捨てなきゃならないのなら、僕は一生ここから出ない。  

でも、精神世界に戻ってこようと思えば、いつでも戻ってこられるから。

だから…。

「…ナジュ君。外の世界は、怖いよ」

「…はい」

そうなんでしょうね。

あなたが、そう言うのなら。
  
記憶をなくした僕と違って、あなたは外の世界を知っている。

そのリリスが言うのだから、きっと外の世界は、僕にとって脅威なのだろう。

「また利用されて…。今度は、記憶をなくすだけじゃ済まないかもしれない。ナジュ君の、人格そのものが…消えてなくなっちゃうかもしれない」

「…はい」

「はいじゃないよ!」

リリスは、僕の腕を掴んで言った。

彼女もまた、必死だった。

僕を守ろうと、必死に…。

「ナジュ君がいなくなったら、私はどうすれば良いの?また永遠の一人ぼっちに逆戻りするんだよ!?ナジュ君のいない世界で、永遠に、一人で!」

「…」

「想像しただけでも、こんなに辛いのに…!ナジュ君には分からないんだ。私がどれだけ一人で寂しかったか。何千年も何万年も、『冥界の女王』なんて言われて、誰とも添い遂げられずに一人だけ…!この終わりのない苦しみが!」

「…」

「ナジュ君が死んだら、私は一人ぼっちなの!もうそんなの嫌!一人になりたくない!ナジュ君と一緒にいたい。ずっと永遠に一緒にいてよ!私と…」

「…いますよ」

僕は、リリスを抱き締めた。

珍しいですね。
 
リリスが僕を抱き締めることはあっても、僕がリリスを抱き締めることはあまりなかった。

こんなにも、お互いを大事に思ってるのに。

永遠に一緒にいたい気持ちは、お互い変わらないのに。

リリスはここに留まりたがり、僕はここから先に行こうとしてる。

「ずっと一緒にいますよ。心配しなくても」

「…。死にかけたんだよ、ナジュ君は。あの人達のせいで。人格を殺されかけたの」

「そうなんでしょうね」

記憶をなくしたのも、そのせいなんだろう。

不死身のはずなのに、人格を殺されたんじゃ、それは死も同然だ。

だからリリスがこんなに必死なのだ。

僕を失いたくないから。

それは僕だって同じだ。リリスを失いたくはない。
 
でも。

「あなたを置いては逝きませんよ、僕は」

「ナジュ君…」

「あなたは、一人ぼっちは嫌だって言いますけど」

僕だって。
















「…一人ぼっちは、嫌ですからね」

僕達は元々、一人ぼっち同士だった。

記憶をなくしても、それだけは覚えてる。

一人と一人が出会って、二人になって。 
 
そして一つになった。

だから離れない。一つになったものは、何人も、神でも、引き裂くことは出来ない。
 
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