神殺しのクロノスタシスⅢ
―――――――…イレースさんという教師と共に、学院の校舎内を見て回り。

その後学院長室で、謎の紅茶パーティを開催してもらい。

彼らと話して、僕は、記憶をなくす前の自分が、どれほど彼らを大切にしていたのか。

どれほど彼らが、僕を大切にしていたのか、分かった。

自分が意識を失い、記憶まで失った理由も、ハッキリと分かった。

優しいから。

あの人達、あんなに優しいから。

だから僕、あの人達の役に立ちたかったんだ。

不思議だ。

リリス以外の誰かの為に頑張る、努力するなんて。

僕の性分を考えたら、有り得ないことだったのに。

そうか、そういうことだったんだ。

記憶を失う前の僕の気持ちが、今ならよく分かる。

そうですよね。

あんな良い人達の為だったら、無理して頑張ろうって気にもなりますよね。

そのせいで迷惑をかけてるんだから、救いようがないが。

でも、そういうことだったんだ。

リリス。

僕は、彼らに利用されていたんじゃない。

僕は、彼らに利用して欲しかったんだ。

自分の意志で。

彼らの役に立ちたい、認められたい、頼りにされたい…その一心で。

だから。

戻ってきて良かった。

戻ってくるという選択をした僕は、間違っていなかった…。

記憶が戻らないのは、残念だけど。

でも、彼らはそれでも良いと言ってくれた。

また1から、やり直せば良いと。 

そうですね。

また1から、やり直せば良い。

彼らとなら、それも出来るだろう…。

心の重荷が降りたような気持ちで。

僕は羽久さんに連れられ、医務室に戻された。

そこには、天音さんが待っていた。

「…お帰り」
 
「ただいま…」

「どうだった?何か思い出せた?」

「…」

僕も、送りに来てくれた羽久さんも、無言の返事。

思い出したよ、と言えたら良かったのだけど。

「…そう、まだ無理だったんだ…。仕方ないね、分かった」

「…済みません」

「大丈夫だよ」

天音さんは、笑顔で答えた。

「…じゃ、天音。ナジュを宜しく」

「うん、任せて」

僕を医務室に送り届け。

羽久さんが、医務室を去っていった。

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