神殺しのクロノスタシスⅢ
「…何も思い出せなかったの?」

「…はい」

「…そう…」

天音さんの、この落胆した表情。

…申し訳ない。

もう一度、最初からやり直せば…とは言うけれど。

やっぱり、すぐにでも思い出すのが、一番手っ取り早い手段であって…。

「…聞いたの?君がどうして、イーニシュフェルト魔導学院に来たのか」

「あ、はい…。『カタストロフィ』という組織に与していたとか…」

「…」

「リリスに会う為に…死に場所を探していたとか…」

その為に、その為だけに。

長い長い旅を続けていたとか…。

それは多分、僕にとって楽しい記憶ではないのだろうが…。

「…学院長先生達は、優しいから」

「はい?」

「きっと、『無理して思い出さなくて良い』って言ったんだよね」 

天音さんは、静かに微笑んで言った。

「はい…」

「『無理して思い出さなくても、1からまたやり直せば良い』って。あの人達は、そういう人だよね。優しいから…」

「はい…それは、言われましたが…」

「やっぱり。本当に優しいなぁ…」

…そうですね。

でもそれは、あなたも同じ…。

…え?

ふと読んだ彼の心が、優しさから遠ざかった場所にあることに気づいて、ハッとすると。
 
「…」
 
天音さんは、僕に心を読まれないように。

僕に背中を向けて、目を逸らした。  

「天音さん…?」

「…『カタストロフィ』のことを聞けば。君がイーニシュフェルトに来た経緯を聞けば、思い出すと思ってた…。いや、思い出して欲しいと期待してた」

「…それは…あの、ごめんなさい」

あんなに色々教えてもらったのに。

僕、ちっとも思い出せなくて…。

「…僕個人は、学院長先生や羽久さんの意見に賛成なんだよ」

天音さんは、僕に背を向けたまま言った。

「思い出せないのは仕方ない。忘れてしまったのなら、また1から絆を築き始めれば良い…。それで良いと思う。出来るなら僕も、そうしてあげたい…」

「天音さん…?」

彼の心が読めない。

彼が何を言いたいのか分からない…。

「…僕ね、幻覚魔法って、そんなに得意じゃなかったんだけど」

「…はい?」

いきなり、今度は何の話?

幻覚魔法?

何で?

「今回、クュルナさんに少し指南を受けて、教えてもらったんだ。…こうなるかもしれないと思ったから」

え。

ようやく振り向いた天音さんは、片手に杖を持っていた。

見たことがないくらい、厳しい顔だった。

…いや。

「前にも言ったよね。僕は君を許す。僕だけは君を許す…けど」

僕は前にも、この顔を見て、

「…君に殺された人は、君を許さない。君が己の罪を忘れることを、君に殺された人は、決して忘れない。だから…」






















「君は思い出さなきゃならないんだ。自分が…『殺戮の堕天使』であったときのことを」

「…!!!」


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