神殺しのクロノスタシスⅢ
瞼の、奥に。

景色が見えた。

大地に血が染み込み、肉片が飛び散り、返り血を浴びる己の身体。
 
人々の絶叫。助けを求める声と、死の間際に発する断末魔の叫び。

『…出てきませんね』

恐怖に怯える母子の首を切り捨て、

『ここに、大変優秀な魔導師がいると聞いたんですけど…』

平然と、その生首を地面に捨てる男の姿。

それが他でもない自分なのだと気づいた。

何でそんなことを。

やめて、と言いたくても、これは幻覚。

僕には、見ているだけで、何の干渉も出来ないのだ。

『いるじゃないですか。しかも、今のを防ぐとは…。優秀な魔導師というのは、伊達ではないようで』

飛び出してきて、村人を守ろうとする天音さんに、

僕は、半ば笑いながら語りかけた。

何で笑える。

そんなにたくさんの人を殺しておきながら、何で。

『あなたは…。お前は…何者だ』

天音さんが、村人を守りながら聞いた。

僕も聞きたかった。

僕の姿をして、僕の使う魔法を使って、罪のない人を、家畜のように殺すお前は誰だ。

『そうですね…。『殺戮の堕天使』とでも名乗っておきましょうか。何だか格好良くないですか?』

何が、そんなにおかしいのか。

僕は、笑いながらそう答えた。

罪のない人の命を奪っておきながら。

『殺戮の堕天使』…これが。

これが…。

『さぁ守ってください。怒ってくださいよ。さもないと…』

僕は、手に持っていた少年の首を放り投げ。

風魔法の刃で、その首をバラバラの肉片に変えてしまった。

『…全員、こうなってしまいますよ?』

『…!お前…!』

『じゃあ始めましょうか。人生最後の…血の饗宴を』

憎しみに染まった、天音さんの顔。

罪なき人々の返り血を浴びながら、笑ってみせる僕の顔。

これは、天音さんが作り出した幻覚、などではなかった。

これは、紛れもなく僕の…。




「…っ!!」

頭の奥に、鋭い激痛が走った。
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