神殺しのクロノスタシスⅢ
「…あー…」

「…大丈夫?」

…大丈夫?じゃないよ、全く。

「…随分な荒療治じゃないですか。らしくもない」

「君が、絶対忘れちゃいけないことを忘れるからでしょ」

「そうでした。今回は、全面的に僕が悪いですね」

故に、何も言い返せない。

悪いのは僕だな。完全に。

令月さんじゃないが、どうやって罪を償おうか?

切腹でもする?

秒で再生するけど。

「…その様子だと、思い出したみたいだね」

「えぇ思い出しましたよ。己が何者なのか、その全てを」

嫌な思い出させられ方だったよ。

忘れたのは僕が悪いんだから、贅沢言ってられないが。

それにしたって、荒療治だよなぁ?

僕の中の…一番の黒歴史を突きつけるなんて。

しばらくぶりに実家に帰ったら、中学生の頃に書いてた中二病ノートを見せられて。

「ねぇねぇこれお前のだろ?こんなの書いてたの?」って言われた気分。

一生忘れていたかったものを。

…とはいえ。

そんな黒歴史を含めて、僕という人間が出来上がっているのだ。

黒歴史だからって、目を逸らす訳にはいかないな。

ありがとう黒歴史。

君のお陰で、僕は大切なことを思い出したよ。

黒歴史万歳だ。畜生。

「もっと優しく思い出したかったですね」

「もっと優しく思い出させようとしたのに、君が思い出さなかったからだよ。『カタストロフィ』のことを話せば、思い出すと思ったのに」

そうですね。

片鱗は見せられていたのに、気付けなかった自分が悪い。

「それに、学院長先生達は優しいから…。君が『カタストロフィ』で何をしたのかなんて、話さなかったでしょう?」

「…話しませんでしたねー」

精々、禁書の封印を解いて云々〜までしか言わなかった。

リリスだって、そういうことには全く触れなかったし。

全く、僕の周りには、優しい人間(魔物含め)が多過ぎる。

贅沢言って申し訳ないけどさ。

もっと、突っ込んだことをズバリと言って欲しかったですね。

「君、あちこちで殺戮を繰り返して、挙げ句『殺戮の堕天使』なんて異名がついてたらしいよ」とか。

そこまで言ってもらったら思い出し…。

…てた、かなぁ?

自信ないなぁ。

天音さんに、この記憶の幻覚を…紛れもない、真実の記憶を…見せられるまでは。

記憶を取り戻せなかった気がする。

僕には、これくらいの荒療治が必要だったってことだ。

え。もしかして僕ドMなの?

「よしよし、思い出してね〜何なら思い出せなくても良いんだよ〜」と、よしよしされるより。

「さっさと思い出せやコラァ!!」と、ぶん殴られた方が思い出すタイプ?

天音さん、あなた最高ですよ。

僕の記憶を取り戻させてくれたばかりか。

一生知りたくなかった、自分の性癖まで教えてもらった。

どうもありがとうございます。

「…迷惑かけましたね」

「心配と不安が抜けてるよ」

「迷惑と心配と不安かけましたね」

「そうだね」

皆の役に立つ為に、読心魔法の訓練をしていたはずが。

逆に迷惑と心配と不安をかけたんじゃ、本末転倒って奴だ。

あぁ、学院長達にも謝んないとなぁ。

やっぱり切腹案件かな?

と、思っていたら。

「…でも、戻ってきてくれて良かった」

「…」

「…お帰り」

…あなたという人は。

「大事なこと忘れやがって馬鹿野郎」、と殴っても良いところを。

…やっぱり、僕の周りには、優しい人が多過ぎる。

だから困るんだよ。

でも。

「…ただいま」

帰ってきて良かった。

帰ってこれて良かった。

そう思える場所が、今はあるのだ。
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