神殺しのクロノスタシスⅢ
「え、いやおかしい。何でそうなるんですか?」

「うるせぇ」

はい?

そこは、「ようやく戻ってきたのかー!」と、感動的に抱き合うシーンだろう。

暴力的にも程がある。

「記憶がないなら、仕方ないと思って諦めてたがな…。俺は元々、お前が目を覚ましたら、やろうと思ってことが二つある」

あ、そうなんですか。

「そして、まず一つ目がこれだ!そんな訳で…歯を食いしばれ!」

「えぇぇぇ!暴力反対!暴力教師!」

「うるせぇ!!生徒が悲しむから、顔は勘弁してやるよ!」

え、ちょっと。

顔は勘弁して、代わりに腹パンとか、むしろそっちの方がエグ、

「ぐはっ…」

羽久さん渾身の腹パンが炸裂。

頭の中にスパークが走った。

内臓。内臓潰れたよ今。

あっ、僕不死身だった。大丈夫だ。

でも痛い。

「いっ…てぇ…」

羽久さん、あなた容赦というものを知らない。

「あー、気が済んだ。すっきりした」

人に腹パン食らわせておきながら、そんな爽やかな笑顔で。

しかもこの人、僕をシルナ学院長に見立てて殴ってますからね。

シルナ学院長への日頃の鬱憤と、僕への怒りをミックスして殴ってきた。

関係なくない?学院長への怒りは、学院長にぶつけてよ。

ついで感覚で殴られる、僕の身にもなってくれ。

「大丈夫?さっきあげた薬飲む?」

「いえ…良いんで…」

令月さん。あなた涼しい顔して。

今、そんなにっがいもの飲んだら、僕はまた記憶を失うよ。

全く、不死身じゃなかったら死んでますよ。

死ぬようなパンチではなかったけどね。

渾身の怒りは感じました。

「…で?一つ目が終わったんでしょ。二つ目は?」

「あぁ、二つ目な」

そう言うなり。

羽久さんは、今しがた殴ったばかりの僕を抱き締めた。

「…よく戻ってきた」

「羽久さん…」

「死ぬほど心配したんだからな…。この馬鹿。もう二度と…あんな無理するな」

「…ごめんなさい。反省してますよ」

こっちの…。

二つ目の方を、先にして欲しかったな。

「それと…俺達も、悪かった」

「何がですか?」

「すぐりから聞いた。無意識だったとはいえ…俺達は、お前のことを心の中で役立たず呼ばわりしてたらしいな」

…あぁ。

そういえば、そんなこともあったね。

それがきっかけで、読心魔法の特訓を始めたんだっけ…。

今となっては、遥か昔のことのように感じる。
 
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