神殺しのクロノスタシスⅢ
「言い訳するつもりはないが…本当に、そんなつもりはなかったんだ」

「…分かってますよ」

今も、あなたの心を見てますからね。
 
あなたが、自分の無意識の思いがどれほど僕を傷つけ、追い詰めたことかと。

酷く気に病み、後悔してるってことは。

いちいち言葉にしなくても、心を読めば、すぐに分かる。

心は素直だからね。

「でも、無意識に…そう思ってしまったのは、俺達も…ナジュの読心魔法に慢心してたからだ。お前一人に任せっきりにして、自分の洞察力を働かせることを怠ってた…」

…それは違う。

僕一人に任せっきりにされるのは、僕自身が望んだからだ。
 
あなた達の役に立ちたいから、頼りにされたいからって、そんな子供みたいな理由でね。

「その結果がこれだ。俺達が軽薄だったせいで、お前を追い詰めて、苦しめて…。そのことに気づきもせず…」

「…」

「本当に…悪かったと思ってる」

…知ってる。

「…大丈夫ですよ」

言葉にしなくても、心を読めば分かるし。

それに。

「自分も、同じくらい悪かったと思ってますから」

「…そうだな。お前も悪いな」

「そうですね」

皆に黙って、自分の限界を越える、危険な訓練を続けていた。

危うく、僕の記憶どころか、人格さえ消えてしまうところだった。

冷静になった今だからこそ、分かる。

あのとき、自分がどれほど焦りに駆られていたからか。

どれほど冷静さに欠けていたことか。

本当に、無謀なことしようとしたもんだよ。

リリスが必死になって、僕を引き留めたと言うのに。それさえ無視して。

申し訳なかった。

「何て言うか…。皆さん、本当済みませんでした」

僕が一人で暴走したせいで。

色んな人に、色んな迷惑と、色んな心配と、色んな不安を与えてしまって。

令月さんじゃないが、切腹して謝りたい気分だ。

切腹しても死ねないのだが。

「それを言うなら、きっかけを作った俺達が悪いだろ。無意識とはいえ、仲間を役立たずなんて…」

「あ、いやそれは、僕が慢心していたからで」

「そもそもそれは、俺が『慢心w』って煽ったせいなんだけどね〜」

「はいはい、もうやめにしよう」

謝罪合戦になりかけたところを。

シルナ学院長が、割って入った。

「お互い悪かった。反省してる。今後はもうしない。それで良いじゃない。丸く収まったんだし、もう終わりにしようよ。いつまでも引き摺ってても仕方ないよ」

「シルナ…」

…さすが、こういうときは学院長らしい。

「それより、楽しいこと考えよう。過去のことじゃなくて、未来のことを。その方がずっと楽しいよ」

…そうですね。

過去を、ちゃんと取り戻したから。

今度は、未来の話をしよう。

< 305 / 822 >

この作品をシェア

pagetop