神殺しのクロノスタシスⅢ
「…だから言っただろう。子供など何人送り込んでも、あの男の手駒にされるだけだと」 

彼女は不満だった。

自分の忠告を聞かず、子供の刺客を送り込み。

そして、忠告通り失敗した。

「それも、『終日組』とかいう手練の暗殺者だったそうじゃないか。それを二人も無為に失わせ、しかも一人は向こうについた」

「…」

「結局、シルナ・エインリーの手駒を、また一人増やしただけだ。これ以上状況を悪くしてどうする?『アメノミコト』頭領…鬼頭夜陰(きとう よるかげ)」

「…さすが」

彼女と相対していた男…『アメノミコト』頭領、鬼頭夜陰が、口を開いた。

「真っ先に味方を敵に盗られた女は、説得力が違うな」

「…」

彼女は、露骨に顔をしかめ。

「…あれは元々味方ではない。利害が一致していたから、協力関係にあっただけだ」

「だが、結局はそやつも、シルナ・エインリーにほだされて奴につき、今、お主にとって厄介な敵となっている。違うか」

「あれは不死身の身体が厄介なだけだ。それ以外は特に問題ない。読心魔法も、防ごうと思えば防げる。不死身の身体とて、動けなくしてやれば実質あれには何も出来ない。何の脅威にもならない」

彼女の言う、あれ、とは。

つい最近目覚め、記憶を取り戻したばかりの、一人の教師のことである。

そして彼女は知らない。

その教師が、読心魔法の弱点を克服していることを。

「子供の刺客を何人送り込もうと無駄だ。全てシルナ・エインリーの口車に乗せられ、結局は敵に回すだけ…」

「…案ずるな。元々『八千歳』と『玉響』ごときに、シルナ・エインリーをどうこう出来るとは思っていない」

「…何?」

彼女の顔色が変わった。

「あの黒月令月さえも、シルナ・エインリーは味方につけたのだ。他の誰を送り込もうと無駄だ。『八千歳』と『玉響』が奴の手に落ちることは予測していた。…『玉響』が死んだのは誤算だったが」

「…どういう意味だ。貴様は、あの二人にシルナ・エインリーと、そして裏切り者の黒月令月を殺させるつもりだったのでは…」

「あれはただの布石よ。これから行う、本物の虐殺の下準備に過ぎん」

「…」

「そんなことより、お主もお主で、やることがあるのではないか?憎きシルナ・エインリーを殺す、秘策があると言っていたではないか」

「…そうだな」

彼女は、瞳に憎悪を宿して立ち上がった。 

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