神殺しのクロノスタシスⅢ
よく見てみると。

令月とナジュが、二人して何かを摘んでいた。

まーたシルナの放課後菓子か。

今度は何だ?またチョコ系の何かか、と思ったら。

「ほら見て!じゃーん!これなーんだ」

「…?クッキー?」

シルナが見せてきたのは、手のひらサイズの、ちょっと分厚いクッキーサンド。

間に挟まってるのは…カスタードクリーム?違うか?

「キャラメルクリームですよ」

俺の心を読んで、ナジュが答えた。

へぇ、キャラメル味とは珍しい。

いつもはチョコチョコ言って、頭の中までチョコたっぷりのシルナが。

たまには珍しい菓子も食べるんだな。

「これねー、アルファフォーレスってお菓子なんだよ」

と、嬉しそうに解説してくれるシルナ。

アルファ…何だって?

聞いたことのない名前だ。

「どうしたんだ?こんな珍しい菓子…」

来客か誰かにもらったのか?

「ほら、前に『ヘンゼルとグレーテル』っていうスイーツショップの話したでしょ?」

あぁ…。

なんか、珍しい菓子を生徒に尋ねられて、わざわざ取り寄せたっていう店な。

イレースに散々怒られた奴。

「あのお店ねー、世界の色んな珍しいお菓子を取り揃えてて。この間お取り寄せしたら、またカタログ送ってきてくれてね〜、美味しそうだったから、また注文してみちゃった!」

「…」

…こいつ、まさか。

「また…性懲りもなく、生徒にばら撒く分まで取り寄せたんじゃないだろうな?」

「…てへっ」
 
おっさんの「てへっ」ほど気持ち悪いものはない。皆、覚えとけ。  

こいつは馬鹿なのか。犬や猫でさえ学習するというのに、こいつは何も学習していないのか。

「お前馬鹿か?イレースにしこたま怒られたの忘れたのか!?」

学院に届く請求書は、全てイレースの目を介するのだと分かっての行為か。

その、『ヘンゼルとグレーテル』とか言う店。

珍しい菓子を取り揃えている反面、王都セレーナからはかなり離れた、南方都市シャネオンにあるお店ので。

セレーナまでお取り寄せともなると、商品の代金にプラスして、配送料もかなりの額になる。 

しかも、またしてもこいつは、生徒に配る分まで購入している。

恐らくその合計金額は、一般人のお菓子代と比較すると、目玉が飛び出るほどの額になっているはずだ。

だからこそ、先日の件でも、イレースが杖に雷迸らせながら迫ってきたのだ。

あのときはまぁ、初めてだったから。一回目だったから、あれでも容赦してくれていた。

言っとくが、元ラミッドフルスの鬼教官であるイレースの「容赦」と、一般人の考える「容赦」には、天と地ほどの差があるからな。

そこは覚えていた方が良い。

命が惜しいならな。

しかし、この馬鹿シルナ。

どうやら、命は惜しくないらしい。

それとも、イレースに黒焦げにされてでも、食べたかったのか?

最後の晩餐のつもりなのか?これが?

アルファフォーレスで死ぬ男、シルナ・エインリー。

すると。

「ふっふっふー。だ〜いじょうぶ!今回は、ちゃーんと対策してあるから!」

シルナは、余裕の表情でそう言った。

「対策…?」

「そう!学院に届く請求書をね…ちょっと偽造しちゃった!」

こいつ、今。

夕飯のおかず、摘み食いしちゃった!みたいなノリで。

とんでもないことを言わなかったか?
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