神殺しのクロノスタシスⅢ
…請求書の偽造。

世間では、それを犯罪と呼ぶ。

それをこの男、さらっと言いやがった。

「…正気か?お前」

「大丈夫大丈夫」

何がだよ。

お前が大丈夫でも、法律は大丈夫じゃねぇよ。

「ちゃんとお金は払うよ?ただ、学院で使う教材費と合算して、『ヘンゼルとグレーテル』からの請求だってバレないようにね?」

「…あ、そ…」

…まぁ。

ちゃんと代金払うなら、合法…か?

それにしても、コスい奴だよ。

己のお菓子代を、学院の教材費と合算して、目眩ましに使うとは。

「教材費って…何の教材なんだ?」

「実技で使う魔導人形。いつもご贔屓にしてる業者がねー、この度新型の魔導人形を発売して。それを買わせてもらうことにしたんだけどね?」

…まぁ。

生徒の授業に使う為のものなら、いくら投資しても悪くはないな。

ましてや、実技授業で使う魔導人形なら。

古い型より、新しい、最新のものを取り入れるべきだ。
 
「で、その業者さんが、うちはいつもお得意様だから、特別に定価より割引しますって言ってくれてね」

「…つまりお前は、その割引分を菓子代に当てて、あくまで魔導人形は定価で買ったってことにした訳だな?」

「ご明察!」

ご明察じゃねぇよ。

ナジュみたいなコスいことしやがる。

「失敬な。僕がいつ、そんなことしたんですか」

うるせぇ。
  
「とにかく、これでイレースちゃんにはバレずに、アルファフォーレスを楽しめるってこと!あー美味しい〜」

「…」

学院の経営者としては、相当悪辣なことをしてると思うが。

一応、払うものは払ってる訳だし、誰にも迷惑はかけてない…のか?

いやでも、請求書を偽造って、それはやっぱり駄目だろう…と。

思っていた、そのときだった。

学院長室の扉が。
 
ギギギギ…と、音を立てて、ゆっくりと開いた。

それはさながら、地獄の門が開くかのようで。

メラメラと燃えたぎる怒りの炎をまとった女性が、学院長室に足を踏み入れた。

言うまでもないが。

彼女こそ、我がイーニシュフェルト魔導学院の唯一の女性教師。

元ラミッドフルスの鬼教官。

そして。

このイーニシュフェルトにおいて、シルナに裁きの鉄槌を下す、断罪の女神、イレースであった。

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