神殺しのクロノスタシスⅢ
─────…ようやく辿り着いた。

「ここだね」

「…」

国境の警備が少し固くて、いつもよりは手こずったけど。

無事に、ターゲットの所在地に辿り着いた。

で、ここからどうするか。

そんなものは決まってる。

「セオリー通り、まずは偵察を…」

『玉響』が、そう言った。

あぁ、そう。そうだね偵察偵察。

一応ここは、あの『八千代』が隠れ蓑に選んだ場所なんだ。

「俺が見てくる」

「えっ」

俺は『玉響』を置き去りにして、袖の下のワイヤーを伸ばし。

学院をぐるりと囲む高い塀に引っ掛け、それを手繰って塀の上に立った。

そして一秒とたたず、俺はワイヤーから手を離し、引き返した。

「ど、どうしたんですか?」

「全く、偵察もままならないねー」

成程、僕達親衛隊…『終日組(ひねもすぐみ)』を二人も寄越した理由が分かった。

「敷地内に、無数の目がある。監視の目が」

「…!僕達の奇襲を想定して?」

「間違いなくそうだね」

「でも、『八千代』にそんな力が…」

「ある訳ないじゃん」

聞くまでもない。

『アメノミコト』は秘密主義。仲間内でさえ、手の内は知らない。

でも俺は、俺達は知ってる。

「あいつにそんな力はない。たかが力魔法しか使えない、役立たずの暗殺者…」

あんな無能が、観察の目を敷地内全体にばらまくなんて、そんな芸当が出来る訳がない。

つまりあれは、『八千代』の味方の仕業なのだ。

「…面白くなってきたじゃん」

俺は、思わず舌なめずりをしたくなった。

『八千代』の暗殺ってだけで、心踊るのに。

ましてや、あいつを守る強固なボディーガード付きとは。

良い御身分になったもんだね、『八千代』。

そのボディーガードを殺され、己の命さえ奪われるその瞬間。
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