神殺しのクロノスタシスⅢ
一時間目の授業が終わり、俺はその足で、学院長室に向かった。

二時間目は、特に授業の予定が入ってなかったので。

ちょっとシルナの様子を見てみようと思ったのだ。

いつもならこの時間、シルナは「朝のティータイム〜♪」とか言って、甘々にした紅茶と共に、チョコレートやクッキーを摘んでいる時間。

しかし。

今日からシルナは、ダイエットを始めた。

ティータイムくらいはしても良いが、せめて無糖の紅茶を啜るくらいで、我慢しているだろう…と。

「…」

…思っていた時期が、俺にもありました。

「もぐもぐ…むぐ?」

学院長室の扉を開けると。

口いっぱいに、チョコタルトを頬張っているシルナを発見。

これはもう…あれだな。

現行犯逮捕。

俺は、無言でつかつかとシルナに歩み寄り。

その後頭部に、渾身の拳骨を食らわせた。

「はぶぅっ!!」

恥を知れ。

この愚か者めが。

「いたぁぁ…舌かんらぁ…」

涙目になるシルナ。

知るか。そんな堪え性のない舌は、いっそ噛み千切ってしまえ。

「何するのさ羽久ぇ…」

「菓子に手を出していたら、俺もお前に手を出して良いと言われてるからな」

有言実行させてもらった次第だ。何か悪いか?

「貴様が何をやってるんだ。え?昨日のダイエット宣言は何処に消えた」

「だっ…ダイエットは、してるよ!」

大振りにカットされたチョコタルトを片手に、こいつは何を言ってるんだ?

しかも、その傍らに置いてあるティーカップ。

「その紅茶」

「え?」

「その紅茶、何杯砂糖入れた?」

「小匙三杯!」

大匙一杯じゃねぇか馬鹿。

15グラムだぞ。

え?どのくらいの量か分かりにくいって?

なら説明してやろう。

スティックシュガー3本〜4本分の砂糖を、こいつはティーカップ一杯の紅茶にぶち込んだんだよ。

甘党の人なら、それくらい余裕かもしれない。

しかし、それは断じて。

ダイエット中の人間がやることではない。

しかもこいつが使ってる、砂糖の種類。

今時流行りの、カロリーオフの砂糖とか、ダイエット甘味料じゃない。

普通のグラニュー糖。

それを惜しみなく、たっぷりとカップに入れて飲んでやがる。

そして、この甘ったるそうなチョコタルト。

三時のおやつじゃない。十時のおやつで、既にこの体たらくだからな。

この意志の弱さ、尋常じゃない。

そりゃ後頭部に拳骨の一発も入れたくなるってもんだろ。

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