神殺しのクロノスタシスⅢ
とりあえず、拳骨2発で我慢してやったところで。
 
反省会である。

「…とりあえず、確認しておくが」

「…はい」

「お前、本当にダイエットする気はあるのか?」

今一度、そこを確認しておく必要がある。

「…あります…」

あるんだ。

蚊の鳴くような声だが、一応ダイエットの意志はあるらしい。

「へーあったんだ。俺はもうとっくに諦めたんだと思ってたよ」

「…」

「ダイエット中の人間が、まさか十時のおやつで、砂糖ドカドカ入れた紅茶片手に、45度に切ったチョコタルトを食ってるなんて、俺には信じられないな」

「あうぅ…」

「おまけにその言い訳が、『チョコタルトが私を呼んでたんだよ』だからな。やっぱりボケてるんじゃないのお前?老人ホーム行けよ」

「酷い!」

イレース、あのパンフレットまだ持ってるかな。老人ホームの。

何処でも良いから入れようぜ。

「本当に、本ッ当に、ダイエットする気あるんだな?」

「ある!あります!」

「腹一杯チョコタルト食ったばっかの奴に、力強くダイエット宣言されても、何の説得力もねぇんだよ!」

「あうぅぅ…」

さっき万引きしてきた商品を片手に、「もう万引きしません!」って言ってるようなもんだぞ。

ナジュが、「僕はもう二度と、妄りに人の心を読んだりしません」って言ったって、全く何の信用も出来ないだろ?

それと一緒だ。

「そのチョコタルトが、貴様の腹の肉になるって分かってるのか?そういうものの積み重ねが、今の無様な腹に繋がってんだよ!」

「分かった、分かったよ羽久!」

「貴様の砂糖に汚染された脳みそで、何が理解出来るって言うんだよ!」

「酷い!」

何が酷いもんか。

黒焦げにしなかっただけ、感謝しろ。

「俺はな!お前がデブ学院長と呼ばれようが、ナジュがイーニシュフェルト1の人気者になろうが、どうでも良いんだよ!分かってるのか!?お前のダイエットに付き合ってやる義理は、元々ないんだよ!」

デブだろうが何だろうが、シルナはシルナだし。

まぁ、確かに相方がデブなのは嫌だが。

でも、それは特に気にしない。

ナジュが生徒達に愛想を振りまいて、学院の風紀が乱れ…るのは、あまり良くないが。

そこは、多分イレースが加減してくれるだろうし。

俺はシルナがブクブク太っていっても、一向に興味がない。

精々、ブタシルナって呼んでやるよ。

それなのに、俺はシルナの勝手で、ダイエット計画とやらに付き合わされている。

で、ダイエット宣言翌日に、早速この体たらくだろ?

やってられねぇ、と思うのは当然だ。

「俺はいつでもやめても良いんだぞ。好きなだけ砂糖食って、好きなだけブクブク太って、出荷されてしまえ!」

「嫌だ!出荷は嫌だぁぁぁ」

大丈夫だ。

お前みたいなおっさんの肉、臭くて食えたもんじゃないに決まってる。

屠殺するだけ無駄だ。

「分かったよ!今日はもう食べないから。この後は何も食べないように頑張るから!」

出たよ。

明日から本気出す系発言。

それで本当に本気出せた奴、見たことがないんだが?

…しかし、まぁ。

「お願だよ羽久〜…。見捨てないで…」

「…」

ダイエット計画も、まだ初日。

いや、初日だからこそ頑張れよ、とは思うけど。

今回ばかりは、目を瞑ってやるとしよう。

俺は、イレースに比べれば寛大な人間だからな。
 
< 335 / 822 >

この作品をシェア

pagetop