神殺しのクロノスタシスⅢ
更に。

次にやって来たのは、シルナダイエット計画の発端となる発言をした、張本人。

イレースであった。

「何事ですか?あの掲示板の貼り紙は」

「あの通りだよ」

俺は、読書に没頭することで、お菓子欲を抑えているシルナを指差した。

しかし、シルナは。

「チョコレートアップルパイタルトエクレアプリンアイスクリームガトーショコラスフレシュークリーム…」

相変わらず、豊富なお菓子ラインナップを口ずさんでいる。

めちゃくちゃシュールな光景だよな。

何の本読んでんの?って感じ。

菓子のレシピ本か?って思うじゃん?

魔導書なんだよ。実は。

「…」

イレース、ドン引き。

「気持ち悪いですね…」

「言うな…。あれでも奴は本気なんだよ」

気持ち悪いのは、俺も同じだ。

でも、あれもシルナなりの努力なのだと分かってるから、耐えられる。

「全く、また妙なことを始めて…」

きっかけを作ったのは、他でもない君だけどな。

「どうせ長続きしないんだから、やめておけば良いものを…」

あくまでイレースは、シルナにダイエットは無理だと思っているらしい。

その気持ちは分かる。

が、俺は今回は…シルナを信じるぞ。

あのとき、チョコレートを窓の外に投げ捨てた。

あのときの、シルナの覚悟を。俺は信じる。

他の誰もシルナを信じないなら、おれだけは信じてやらないと駄目だろ。

「まぁ、それなら無駄な菓子代の出費がなくなりますね。良いことです」

淡々とそう言って、イレースは郵便物をデスクの上に置いた。

その口調から、やはりイレースはシルナのダイエット宣言を信じてないと察する。

信用ないなぁ、シルナ…。

ちょっと可哀想になってきた。自業自得なんだけど。

「まぁ、精々頑張ってくださいね。それじゃ」

ひらひらと手を振って、イレースは去っていった。

ナジュに続いて、イレースにまで小馬鹿にされてるぞ。

それで良いのか、シルナ・エインリー。

見返してやれ。

学院長だって、やろうと思えば出来るんだってことを、見せつけてやれ。

俺は、シルナを応援してるぞ。
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