神殺しのクロノスタシスⅢ
イレースの後にやって来たのは。

「どうしたの、学院長」

イーニシュフェルト魔導学院三年生、令月であった。

「よー、令月…」

「羽久。学院長は何があったの?」

何が、とは。

こちらもまた、言うまでもなくあの貼り紙の件だろう。

「何がも何も、見ての通りだ。本気でダイエットするんだってさ」

「本気で…?」

「あぁ、本気だ」

「そうなんだ…。いきなりあんな貼り紙が貼られてるもんだから、皆びっくりしてたよ」

だろうな。

「最近、不死身先生が突然病気になったりしたでしょ?だから、学院長も生活習慣病的なものに引っ掛かったんじゃないか、とか」

う、うん。

心配してくれてありがとうな。

でも、そうじゃない。

「びっくりして叫んでる子もいたよ。『学院長からお菓子を取ったら、何が残るの!?』って」

う、うん。

それは言い過ぎだからな?

何かは残るだろ。

「それとも学院長の身に何か起きたのか、影武者か何かとすり替わったんじゃないかって」

子供の発想力って、凄いな。

俺達には思いもよらないことを考える。

そしてシルナ。

お前、生徒からそこまで菓子好きだと思われてたんだな。それこそ、アイデンティティの一部とまで。

「あれ、あの学院長本物?偽物とかじゃない?」

「大丈夫、本物だ…。安心しろ」

偽物ではない。

「それなら良いけど…。本当に痩せるの?」

「令月、お前も信じてないのか?」

「何を?」

「シルナがダイエット出来るって」

「僕はどうでも良いから。学院長が豚になろうと骸骨になろうと、学院長は学院長でしょ」

あっけらかんとしたもんだ。

まぁ、令月はそういう奴だな。

「でも、痩せると決めたんなら頑張って」

「あぁ。頑張ってるよ。見守ってやってくれ」

「あ、そうだ。それと…」

ん?

「今日の授業中、外にいた生徒が、空からチョコレートが降ってきたって騒いでて、ちょっとした噂になってるんだけど。あれは学院長の件と、何か関係あるの?」

「…」

…ダイエット表明をするのは、良いことだが。

やっぱり、食べ物を投げるのは良くないな。

今度は、止めよう。
 
それと、その降ってきたチョコレートを目撃した生徒。

誰かは知らないが。

ごめんな。シルナの代わりに、俺が謝るよ。
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