神殺しのクロノスタシスⅢ
な…。

…いきなり、何を言ってるんだ?

「し、シルナ…?」

「何が楽しくて生きてるんだろう。大好きなお菓子も食べられなくてさ。お菓子を通して生徒との交流もなくなって」

シルナは、虚空を見上げながら呟いた。

「不思議なことにね、数日前まで、私はお菓子を食べたくて食べたくて仕方なかったんだけど、今はね、どうでも良いんだ、そんなこと」

「…!?」

どうでも良い、だと?

そんなこと、だと?

あのお菓子大好きなシルナが?

「食べたいものを食べることも出来ない人生なんて、何にも楽しくない。楽しくもないのに、生きてる意味ある?もう、全部どうでも良くなっちゃった」

「し、シルナ。落ち着…」

「あ、そうだ羽久」

シルナの目は。

虚ろに染まっていた。

「いっそそこから飛び降りて、死んじゃおっか。来世はヘンゼルとグレーテルの世界に生まれ直そーっと」

「早まるなシルナぁぁぁぁぁ!」

緊急事態だった。

それは、紛うことなく、緊急事態だった。

俺はシルナを羽交い締めにして止め、大声でヘルプを呼んだ。

誰でも良い。誰か来てくれ。

「誰かっ…誰か来てくれ!誰かーっ!!」

「どーしたの、大声出してさぁ」

「学院長先生!お邪魔しまーす!」

そこに。

丁度良く、救世主(?)がやって来た。

すぐりと…もう一人は確か…園芸部の女子生徒?

何故かその女子生徒は、串に刺したきゅうりを両手に2本ずつ持っていた。

何だ?あれ。

いや、今はそんなことどうでも良い。

助けてくれる人間なら、誰でも良い。

「すぐり!そこの女子生徒!」

「私、ツキナ・クロストレイと申します!」

そうか。そんな名前だったな。

「すぐり!ツキナ!シルナを止めてくれ!投身自殺しようとしてる!」

「いやー、そこから身を投げたくらいじゃ死なないでしょ、その人」  

そういやそうだな。

いや、でもそうじゃない。そういう問題ではない。

学院長か窓から飛び降りる、それ自体が大問題。

「マジレスは良いから!止めてくれ早く!一緒に!」

「はーい」

「学院長先生、大丈夫ですか〜?」

助けが入ってくれたのは、有り難いが。

妙に緊張感のないレスキュー隊で、どうにも頼りなかった。

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