神殺しのクロノスタシスⅢ
――――――…時を遡ること、十数分前。




俺は、いつも通りツキナと二人で、園芸部の畑に入り浸っていた。 

「はーいどっこいしょー」

「…」

「ほーいどっこいしょー」

「…」

「ほらすぐり君も!一緒にやろ!」

いや。

今日も今日とて、ツキナが摩訶不思議なことやってて、面白いなぁって。

眺めてた。

「やーれどっこいしょー!」

「はいどっこいしょー」

二人して、園芸部でソーラン節でもやってんのか、と思われたかもしれないが。

別に、ソーラン節踊ってる訳じゃない。

収穫作業だ。

俺とツキナが、苗の植え付けから始めたきゅうりが。

旬を迎え、すくすくと成長し。

ようやく実りの時期を迎え、収穫出来るものが増えてきた。

きゅうりって、「あと一日置いとこうかな」って思って、一晩放置しておくと。

翌日には、とんでもないビッグサイズに成長してたりするから。

こいつらの成長速度、半端じゃないよ。

そんなきゅうり達の収穫作業を、さっきからツキナは、どっこいしょどっこいしょ言いながらやってるのだ。

何故そんな掛け声が必要なのか、多分掛け声なんか必要ないと思うが。

ツキナが楽しそーだから、良いや。

「ふー、今日はこれくらいかな〜」

どっこいしょ言いながら収穫したきゅうりを見て、ご満悦のツキナ。

を、見てご満悦の俺。

「ねぇねぇ、すぐり君。これはどうやって食べようかな?」

「そうだねー…。暑くなってきたし、酢の物とかどう?」

「酢の物!良いね!」

ツキナが、太陽のような笑顔で答える。

ご馳走様です。

「あ、そうだ。昨日漬けたきゅうりの一本漬けが、良い感じに漬かってるよ〜。一緒に食べよっか」

「そーだね」

漬けたね、昨日一緒に。

しかし、きゅうりのレシピって、意外にパッと思いつかないよな。

まぁ、生で食べても美味しいけどさ。

マヨネーズつけてたべたり、一本漬けとか、さっき言った酢の物とか…。

あとは何だろう…かっぱ巻き?

なんて、乏しい脳内きゅうりメニュー表を漁っていると。

「あ、ねぇ、すぐり君」

「んー?」

ツキナが、ちょいちょい、と俺の清福の裾を引っ張った。

「知ってる?今、学院長先生が、ダイエットしてるんだって」

「あー…。らしいね」

聞かなくても、校内の掲示板にベタベタ貼ってあるから、嫌でも気づく。

『八千代』も、そんなこと言ってたよ。確か。

「大丈夫かな?学院長先生、あんなにお菓子好きなのに。全然食べてないのかな?」

「さぁ…。食べてないんじゃない?」

『八千代』も、学院長が挫折した、とは言ってなかったし。

まだ続いてるんじゃないの?知らないけど。

俺ぶっちゃけ、学院長が太ろうが痩せようが、どうでも良いと思ってるから。

それより、ツキナと一緒に作る、きゅうりレシピの方が大事。

「食べてないのかー…。なんか、可哀想だね」

そうか?

馬鹿みたいに砂糖菓子ばかり食ってる、そのツケが回ってきただけでは?

「ね、すぐり君。提案なんだけど」

「なーに?」

「このきゅうりの一本漬け、持っていってあげない?」

と、ツキナが言った。

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