神殺しのクロノスタシスⅢ
「こちらが、魔導部隊の隊員達の訓練場になります」

魔導部隊隊長であるシュニィが、生徒達を案内してくれた。

「凄い…」

「広いんですね」

「そうでしょう?イーニシュフェルト魔導学院の稽古場の、実に5倍の広さがあるんです。更に、これは第一訓練場で、他にも第二、第三訓練場があるんですよ」

生徒の中から、称賛の歓声が上がる。

だろ?

イーニシュフェルト魔導学院の稽古場も、全国の魔導学院の中では大きめな方だが。
 
聖魔騎士団魔導部隊のそれとは、比べ物にならない広さ。

ま、所属している人間の数が違うからな。

規模が段違いだ。

「更にここでは、魔導部隊だけでなく、刀剣部隊、弓矢部隊、槍斧部隊等の他の部隊の聖魔騎士とも、稽古が出来るんです」

それが、聖魔騎士団の訓練場の最大の魅力だよな。

魔導学院には、魔導師しかいないが。

聖魔騎士団には、魔導部隊だけではなく、刀剣部隊、弓矢部隊、槍斧部隊など、魔法を使わない聖魔騎士もたくさんいる。

世の中、魔法だけで解決出来ることは、そう多くない。

俺達は魔導師だから、何でも魔法で解決しようとするけどな。

しかし、世の中魔法だけで動いている訳でもなし。

戦う手段も、魔法だけではなし。

そんな訳で、いざとなったとき、他の部隊の騎士達とも連携が取れるよう。

こうして、広〜い稽古場が用意されている訳だ。

そして、実際今も。

生徒達が見ている前で、様々な部隊の騎士達が、各々訓練に励んでいた。

その様子を、生徒達は興味深そうに眺めている。

間に、俺は案内人のシュニィに声をかけた。

「悪いな、シュニィ。毎年毎年」

「いえ、可愛い後輩達の、そして未来の同僚の為ですから」

わざわざ俺達の為に、多忙なはずのシュニィは、毎年快く社会見学を受け入れてくれる。

というのも。

イーニシュフェルト魔導学院の卒業生は、その大半が、そのままエスカレーター式に、聖魔騎士団魔導部隊に入隊する。

中には、地元に帰って、地元の魔導学院の教師になったりする、例外もあるのだが。

まぁ、大半は聖魔騎士団に入る。

故に、こうして六年生になったら、職場見学も兼ねて。

実際の聖魔騎士団魔導部隊が、どんな感じか、見に来るのだ。

案の定生徒達、興味津々。

お前らも、来年になったらここに加わるんだぞ。

よーく見とけ。

更に、この社会見学は、見るだけではない。

「皆さん、良かったら、少しここで魔導部隊の魔導師さんと、お手合わせしてみませんか?」

「えっ!」

「良いんですか?」

「勿論」

シュニィの誘いに、更に歓声をあげる生徒達。

これも、粋なシュニィの計らいである。

見ているだけではつまらなかろう、と。

現役で魔導部隊の魔導師をやっている聖魔騎士達を、数名呼んできてくれた。

「こちらの方々も、同じくイーニシュフェルトのOBOGなんですよ」

つまり、生徒達にとっては先輩、ってことになるな。

「良かったな、お前ら。稽古つけてもらえ」
 
「はい!」

生徒達は、意気揚々と訓練の場に加わった。

よし。

「シュニィ、ちょっとここ、見ててくれるか?」

「羽久さん?」

「折角来たんだし、吐月やベリクリーデ達にも、顔見せてくるよ」

クュルナは、この間学院に来てもらったときに会ったが。
 
他の魔導部隊大隊長達とは、しばらくご無沙汰だったからな。

たまには顔を見せておかないと、忘れられてしまうかもしれん。

そんな薄情な奴らはいないか。

いや、でもベリクリーデはあれで天然だから、しばらく見ないうちに「誰だっけ?」とか言いそう。

やっぱり会っとこう。

「分かりました。生徒達は私が見てますから、どうぞ行ってきてください」

「悪いな。ありがとう」

俺は、生徒達とシュニィを訓練場に残し。

魔導部隊の隊舎へと向かった。  
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