神殺しのクロノスタシスⅢ
…この女。

何故、こんなところに…。

「…何をしに来た?」

「私の目的は、今も昔も同じだ」

ヴァルシーナの目には、

いつもと変わらぬ…憎悪が宿っていた。

初めて会ったときから変わらない。

彼女はまるで、憎悪を体現したような人間だ。

そして、彼女をそうさせてしまったのは、他でもない…。

…。

ヴァルシーナは、俺の目をじっと睨みつけた。

俺はその視線を、真っ直ぐに受け止めた。

目を逸らすことが出来なかった。

「…『カタストロフィ』を、再建でもするつもりか」

ようやく、俺は言葉を絞り出した。

「あれは最早過去のものだ」

「仲間だったんじゃないのか」

「奴らは所詮、我ら一族の崇高な使命を共にするに値しない、愚者でしかなかった。だから貴様らごときに負けた」

へぇ、言うじゃないか。

「自分も負けたのを忘れたか?お前が今、そこにいるのは誰のお陰だと思ってる」

この女は、戦いから逃げた訳でも、戦いに勝った訳でもない。

正面から戦って、そして負けて。

それでも、今この女が生きているのは。

「他でもない…シルナに見逃されたからじゃないのか」

「言うなっ!!」

ヴァルシーナから、爆発的な殺気が膨れ上がった。

…愚か者めが。

「今ここでやり合う気か?俺達の…敵の、本拠地で」

それなら、それで良い。

シルナはお前を見逃したが、俺は最初から、この女を野放しにしておくのは、あまりにも危険だと思っていたのだ。

この機会にこいつを捕らえて、大人しくさせておけるなら。

それに越したことはない。

しかし。

「…種は、既に蒔いた」

…何?

「一本目の刃は失敗した。二本目の刃も失敗した…。だが、三本目、四本目の刃が、貴様らの首を跳ねる準備をしている」

「四本目だと…?」

いや、その前に。

二本目の刃というのは、何だ。

「何本刃が飛んでこようと…俺達の敵じゃない」

「そう言っていろ。私は決して、一族の悲願を忘れたりはしない。恥知らずの、シルナ・エインリーと違って…!」

「っ!待て!」

杖を向けようとする、その前に。

ヴァルシーナは、霧のように消えた。

…あの女。

何を考えて…。

「…」

…とにかく、社会見学は早めに切り上げて。

今すぐ、イーニシュフェルト魔導学院に戻っ、
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