神殺しのクロノスタシスⅢ
…手紙の内容を、要約すると。

まず差出人は、『アメノミコト』の頭領だった。

令月とすぐりが顔をしかめていた、その理由が分かった。

特にすぐりは、あんな別れ方をしているから、余計にバツが悪いのだろう。

珍しく、ずっと無言だった。

そして、手紙の内容。

挑戦状であり、果たし状でもあった。

手紙には、日付と時刻、そして住所が明記してあった。

簡単に言えば、その指定された場所に、指定した時刻に来い、ということだ。

ただし、それには条件がある。

来て良いのは、すぐりと令月を含めた、イーニシュフェルト魔導学院に籍のある者だけ。

つまり、聖魔騎士団の人間は連れてくるな、ということだ。

折角、シュニィに同席してもらったのに。

そのシュニィ、及びシュニィ率いる魔導部隊の大隊長達は、この場に呼ぶことを許されない。

もし、俺達イーニシュフェルト魔導学院の人間以外の魔導師を呼べば。

そのときは、学院ごと襲撃する。

生徒だろうと部外者だろうと、関係なく皆殺しにする。

はっきりと、そう書いてあった。

生徒を殺されたくないのなら、こちらの提示する条件を飲め、という訳だ。

小癪な…。

そして俺達は、決めなければならない。

手紙に明記されている約束の刻限は、明日。

明日の夜。日付が変わる時刻。
 
つまり、明後日丁度の時刻ということだ。

長々と作戦を立てている時間も、俺達には与えられない訳だ。

更に手紙には、聖魔騎士団のみならず、この手紙を受け取ったことを、フユリ様に報告することをも禁じていた。

フユリ様とは、我らがルーデュニア聖王国の女王、フユリ・スイレン女王のことだ。

彼女には、何も伝えるな、とのお達しだ。

そもそも。

『アメノミコト』が、こうして事前に襲撃を予告してくれることだって、随分な大盤振る舞いなのだ。

本来なら、暗殺専門組織である『アメノミコト』は、暗殺を事前に予告したりしない。

予告なんかしたら、それは暗殺ではないからだ。

それでも、わざわざこうして予告してくるのには、理由がある。

あくまで『アメノミコト』は、国同士の争いは避けようとしている。

それもそうだろう。

国力を考えれば、ジャマ王国はルーデュニア王国には勝てない。
 
本気で国同士の戦争になれば、遠からずジャマ王国は負け、それに伴って『アメノミコト』も少なからぬダメージを受ける。

それどころか、ジャマ王国の基盤そのものが、崩壊しかねないのだ。

故に、国同士の争いは避ける。

その代わりに、組織同士の争いをする。

徹底的なまでに。

『アメノミコト』と、イーニシュフェルト魔導学院との争いを。

横槍は許さない。どんな第三者の介入も認めない。

そんなギリギリの協定の上で、戦争しようっていうお誘いなのだ。

…成程。

ヴァルシーナが言っていたのは、このことだったんだ。

手紙を読んだ後、俺は皆に、先程ヴァルシーナに遭遇したことを話した。

彼女と交わした会話も。

そして、俺達は知った。

あのときシルナが逃したヴァルシーナ。彼女は、一族の崇高な悲願とやらを、諦めてはいない。

当然だ。

更に彼女は、今度は自分が組織を立ち上げるのではなく。

同じく、イーニシュフェルト魔導学院に…シルナ・エインリーに敵対する者。

ジャマ王国の暗殺専門組織『アメノミコト』に、接触を図り。

利害の一致する者同士が手を組んで、今度こそ「あるべき世界」を作り上げようとしているのだ。

…随分、御大層な理想をお持ちのことで。
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