神殺しのクロノスタシスⅢ
…悠長に、作戦会議をしている暇もないが。

「どうする?」

こういうときだからこそ、俺が、俺達がしっかりしなければ。

イーニシュフェルト魔導学院を、生徒達を守る為に。

「…行くしかないでしょう」

シルナは、不本意ながらもそう答えた。

…だろうな。

敵の罠だと分かっていても、俺達は飛び込まずにはいられない…。

「…そうですね。行かなければ生徒を殺されるとなれば…」

「…僕が蒔いた種だから。僕が行かなきゃ」

イレースと、令月が続けて言った。

その通りだ。

生徒を人質に取られているとあっては、言うことを聞かない訳には…。

しかし。

「…何だか皆さん、行く気満々みたいですが…一応、色々選択肢は考えてみるべきなのでは?」

全員の心を瞬時に読んだらしい、ナジュがそう言った。

「選択肢…?」

「そう。敵の言うことに、何でも従う必要はないでしょう。ましてや、あの女狐が…ヴァルシーナが一枚噛んでるなら、余計に」

この中で誰よりもヴァルシーナをよく知る、ナジュの意見だった。

「それは…行かないってこと?『アメノミコト』の条件を飲まないってこと?」

「そうです」

…!

「お前…!生徒が人質に取られてるって分かってるのか?俺達が行かなきゃ、生徒が…」

「僕からすれば、そこも疑問なんですよ。条件を飲まなかったら生徒を殺す?はぁそうですか。でも、どうやって?」

…どうやって…って。

それは…。

「何ですか?『アメノミコト』の皆さんは、今も常時学院の周りを取り囲んで、いつでも戦闘準備万端!状態なんですか?います?そんな奴ら」

「…私の分身の目の届く範囲には…いないね」

と、答えるシルナ。

更に、この中で最も思慮深いシュニィも。

「確かに…。敵が準備万端整えている罠に、自らかかりに行くより…私達が要求を飲まず、学院で徹底抗戦に挑むという選択肢も、考慮に入れるべきです」

はっきりと、そちらの選択肢も口にした。

「攻めてくるのが学院だと分かっているなら、簡単です。『アメノミコト』が総力をあげて生徒を殺しにかかろうとも、聖魔騎士団が部隊を派遣し、総出で学院を守ります」

学院内に立て籠もり、徹底抗戦という訳だ。

学院内には、指一本触れさせない。

「でも、周囲への被害は…」

「聖魔騎士団の権限で、二日以内なら戦闘域に住む近隣住民を強制避難させられます。時間的に余裕がないので厳しいですが、無理すれば可能です」

…成程。

『アメノミコト』の策に、わざわざハマってやる必要はない。

学院に攻めてくるなら来い。迎え撃ってやる。

その姿勢を崩さず、あくまで生徒を守りながら、学院に立て籠もって『アメノミコト』と戦うか…。

それとも、『アメノミコト』の要求通り、明後日丁度に指定された場所に向かうか…。

「そもそも、その手紙に書かれた条件を、向こうが守ってくれる保証はありません。我々が指定ポイントに向かって、学院を留守にしている間に、学院を一気に奇襲する…その可能性もあります」

…考えうる限り、最悪のパターンだな。

勿論奴らは極悪非道な暗殺組織なのだから、そんな卑怯な手口を使ってくる可能性も、十二分にある。

「時間はないですが、冷静に考えましょう。行くべきか、行かないべきか。向こうの意図も可能な限り探りながら…」

「行かなきゃ駄目だよ」

「?」

シュニィの言葉を。

令月が、ばっさりと切り捨てた。
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