神殺しのクロノスタシスⅢ
「令月…」

「頭領が『来い』って言ってるんでしょ?なら行かなきゃ駄目。皆殺しにされるよ」

…少しも表情を変えず。

令月は、淡々とそう言った。

そして。

「そうでしょ、『八千歳』」

「…そーだね。俺も同意見だ」

『アメノミコト』の頭領。奴のやり口を一番よく知っているであろう二人が。

口を揃えて、学院に立て籠もる案を却下した。

「頭領様は…やると言ったことは、どんな手段を使ってでもやる。聖魔騎士団とやらを、軽視してるつもりはないけどさ…。本気で生徒を一人も殺させたくないなら、行った方が良い」

「でも…。私達を学院から離れさせることが目的で、本当は始めから生徒狙いだったとしたら?」

「勿論その可能性はあるよ。その上で、行った方が良いって言ってるの」

「頭領が最初から生徒狙いなら、もう太刀打ち出来ないよ」

…令月。
 
お前、なんてことをさらっと。

「この間の襲撃を忘れたか?一人の生徒も殺させずに撃退しただろ」

「あの人達は下っ端だよ。『アメノミコト』でも、格下の暗殺者だった」

あぁ…。

言ってたな、そんなこと。

こいつらは所詮四天王の中でも最弱、的な台詞を…。

で、今度は本物の、最強の四天王が攻めてくるって?  

「今度は確実に、『終日組』の暗殺者を差し向けてくる。頭領の目的が生徒達なら、僕らが学院に籠城して迎え撃っても、無傷で守ることは出来ない。皆殺しにはされなくても、何人かは殺されるよ」

「…」

それじゃ意味がない。 

例え一人でも、生徒を殺される訳にはいかないのだ。

「だったら、最初から紳士協定を信じて、大人しく条件を飲んだ方が良い。本当に生徒を殺せば、ルーデュニア聖王国の女王様…フユリだっけ?」

様をつけろ、様を。

「あの人も黙ってないだろうから、国同士の争いになりかねない。生徒に手を出すことは、多分頭領にとっても本意じゃない」

「…」

「その条件は…多分、信じても良いと思うよ。こっちが条件を飲めば、向こうも生徒には手出ししない…と、思う」

あくまで確証はないが、その可能性が高い、と。

成程。実に参考になる意見だ。

「…すぐりも、同じ考えか?」

「…残念ながら、全面的に『八千代』に同意だね」

「そうか」

『アメノミコト』のやり口を、一番よく知っている二人が、口を揃えてそう言うなら。

多分、そうなのだろう。

いずれにしても、人を殺すことに何の躊躇いも持っていない人間の集まりなのだ。

こっちの常識は通用しない。

「…では、学院長。あくまであなたは行くのですね?」

「そうだね。それで生徒を守れるなら」

シルナも、即答だった。

とにかくシルナにとっては、生徒の身の安全を確保することが、第一優先なのだ。

俺にとってもそうだ。  

「でも、シュニィちゃん。一応、学院の警備を聖魔騎士団に…」

「分かっています。聖魔騎士団魔導部隊大隊長総出で、学院の警備に当たります。アトラスさんも同意してくれるはずです」

シュニィも即答だった。

「…ありがとう」

例え『アメノミコト』が、俺達を無視して最初から生徒狙いだったとしても。

聖魔騎士団の大隊長達が、学院を守ってくれているとなれば、少しは安心出来る。

「私の分身もたくさん残しておく。いざとなったら、すぐに戻るから」

「そうですね。でも、安心してください。私達がいる限り、生徒には指一本触れさせはしませんから」

それは心強い。

なら、いざとなったときの学院の警備は、シュニィ達聖魔騎士団に任せて。

「…で、僕達はホイホイと、敵の罠に突っ込んでいく訳ですか」

「…その通りだ」

ナジュは、大袈裟に溜息をついた。
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