神殺しのクロノスタシスⅢ
「何だよ、その溜息は」

「僕は気が進まないんですよ」

「俺だって気は進まないよ」

むしろ、気が進んで敵の罠に引っ掛かりに行く奴がいるのか?

どんなマゾだよ。

「僕には、あなた方がマゾにしか見えないですよ」

心を読むな馬鹿。

「何がそんなに不満なんだ?」

「敵が『アメノミコト』だけなら、別に怖くないですよ?何回暗殺されたって、僕不死身だし」

そりゃそうだけど。

お前、また誰かの盾になろうとしてるんじゃないだろうな。もうやめろよ。

「でも、敵にはヴァルシーナが噛んでるんでしょう?」

「…そのようだな」

「それが厄介だって言ってるんですよ。あいつの場合、心に仮面被ってるから、安易に読心魔法も使えない」

そういや、そうだったな。

ナジュにとって、心の読めない相手は警戒対象か。

「当たり前でしょ。だって、相手が何考えてるか分からないんですよ?不安にもなるでしょ」

「普通は、分からないのが当たり前なんだけどな」

読心魔法の使い過ぎで、感覚が麻痺してやがる。

「とはいえ、あの人の考えることは、大体分かりきってるでしょう。神々の復活、でしたっけ?」

と、イレース。

「あの人が何を考えていようと、結局はそこに行き着くんです。そう考えれば、あの女の魂胆は、大体読めるのでは?」

「そりゃそうですけどー…」

…まぁ、多分。

『アメノミコト』と俺達を潰し合わせて、あわよくば俺かベリクリーデを拉致って…ってところだろうな。

「そもそも、ヴァルシーナは戦場に出てくると思うか?」

「さぁ、どうでしょうね。ヴァルシーナが『アメノミコト』と何処まで組んでるのか、どういう条件で協力してるのか知りませんが…。羽久さんを捕らえられるチャンスがあるなら、まず出てくるでしょう」

…やはり、そうか。

「あいつ、色々コスい魔法使いますからねー。常に警戒しておいた方が良いですよ」

自分も充分コスい魔法を使う癖に、なんか言ってるぞ。

「失礼な。僕の魔法は健全ですよ」

「勝手に人の心を読む魔法の、何処が健全だって?」

不健全極まりない。そのせいで一ヶ月半も寝込むし。

「ま、行くと決めたんなら、こちらもそれなりの準備をしておいた方が良いですね」

「そうだな」

確かに俺達は、敵の用意した罠に、自ら飛び込む訳だが。

自衛の一つもせず、飛び込むつもりはないぞ。

その罠が、本当に俺達を捕らえられるものである自信があるのなら。

その自信、へし折ってやろうじゃないか。
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