神殺しのクロノスタシスⅢ
それだけでも、もう俺の怒りの沸点を越えそうなのに。

鬼頭夜陰は、更に俺の怒りの炎に油を注ぐようなことを言った。

「ほう、さすがだ黒月令月。あの体勢から、あれを躱すとは」

死にかけながら戦わされているすぐりには、目も向けず。

令月を称賛してみせた。

「やはり貴様は優秀だ。儂のもとに残れば、さぞや優秀な暗殺者に育っていたろうに…。…それに比べ」

鬼頭は、つかつかとすぐりに歩み寄り。

息も絶え絶えになっているすぐりの、折れた左脚を。

杖で、思いっきり殴り付けた。
 
「あがっ!!」

痛みのあまり、すぐりは意識を取り戻して悲鳴をあげた。

「貴様は、相変わらず何の役にも立たんな」

…この。

「暗殺者として役に立たんどころか、武器としても役に立たんとはな。黒月令月を越えるのではなかったのか?この欠陥品めが」

「…」

すぐりは答えなかった。

答えられなかったのだ。

あまりの苦痛のせいで、また意識を失いかけていた。

しかし、鬼頭はそれを許さない。

「『薄暮』。花曇すぐりを起こしてやれ」

「御意」

『薄暮』が頷くなり、すぐりの右手首がグキッ、と嫌な音を立ててぐるりと捻られた。

「うぁぁ!!」

その痛みに、すぐりは再び現実世界に引き戻された。

「聞いているのか、欠陥品。まだ一人も殺せておらんぞ。せめてシルナ・エインリーか、羽久・グラスフィアのどちらかくらい殺せんのか」

「…い…」

すぐりは、息も絶え絶えになりながら、掠れる声で答えた。

「い…いや、だ…。殺したく、な…」

「そうか。殺したくないか。暗殺者どころか、最早武器としてもガラクタ同然だな、貴様は」

鬼頭は、杖ですぐりの頬を殴り付けた。

頬骨の折れる音がした。

「黒月令月を越えるどころか、暗殺する、人を殺すことさえ放棄した役立たず。欠陥品。生まれたときから何の価値もないクズが、このような生き恥を晒してまで無様に生き永らえ、果ては武器としても使えずに死ぬとはな」

「…」

「最早貴様の生に、何の意味もない。誰も何も期待してなどおらん。精々無様に死んで、地獄の業火に焼かれることだ」

「…」

すぐりの、目に。

絶望が浮かんでいた。

その瞬間。

俺の怒りのゲージが、頂点に達した。

「…黙って聞いてりゃ、勝手なこと言ってんじゃねぇぞ、糞ジジィ」

令月のときといい、今この瞬間、すぐりのときといい。

この糞ジジィは、百万回殺しても飽きたらない。
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