神殺しのクロノスタシスⅢ
…耄碌したジジィの相手をするのは、シルナで慣れてると思ってたが。
以前会ったときと、何も変わってない。
この男は、シルナなんか可愛いひよこに思えるほどの…最低な糞ジジィだ。
すぐりはずっと必死だった。
生きる為に家族を殺し、生きる為に『アメノミコト』に入り、そこでまた生きる為に人を殺し。
そんな自分の価値を認めてくれるのは、目の前にいるこの卑しい男だけだと信じ続けた。
この男に認められたくて、この男に自分を見て欲しくて、死に物狂いで生きてきた。
令月を越えれば認められる、そう信じて。
今までヴァルシーナ以外、誰も出来なかったことをした。
心に仮面を被って、ナジュの読心魔法を謀ってみせた。
寝返ろうとした『玉響』を殺してまで、自分の忠誠心をこの男に見せつけた。
その為に、自爆まで試みた。
全ては、この男に…鬼頭夜陰に認められる為。
その為だけに生きてきた、すぐりの気持ちを知っていながら。
この男は、ほんの少しだって、すぐりを顧みたりしなかった。
すぐりが血反吐を吐き、苦しみに喘ぎ、それでも必死に伸ばそうとした手を…振り払った。
それどころか、見下ろしてコケにしたのだ。
悪鬼の所業だ。
俺の中に眠る邪神とて、この男の邪悪さには劣るだろう。
「自分を慕う子供ですら…駒としか思ってない、道具としか思ってない。最低最悪の糞野郎だ、お前は!」
「ふん。その言葉、己らの学院長に言ったらどうだ?自分を慕う子供を道具にしようとしているのは、貴様とて同じだろう」
はぁ?
「てめぇみたいな糞を、シルナと一緒にするな!!」
お前の、何処が。
シルナの、何処が。
お前と同じだって言うんだ。ふざけんな。
「シルナにあってお前にないもの、教えてやろうか!愛だよ!罪悪感だよ!シルナは確かに、教え子達を神殺しの生贄にしようとしてるのかもしれない。でもシルナは彼らを愛してる!」
「羽久…」
シルナは、驚いた顔で俺を見つめていた。
なんだ、自覚あったんじゃないのか。
「愛してるが故に葛藤して、愛してるが故に罪悪感を抱いてる!愛する者同士を天秤に掛けて選んだ答えを、その大きな罪を、背負う覚悟がある!」
笑える話だろう?
そんなもんどうでも良い、自分の愛する者だけが救われるなら、他の者なんてどうなっても構わない。
そう思えば楽なのに、そう思えば葛藤する必要もなく、罪悪感を抱くこともないのに。
それすら出来ない、馬鹿みたいな優しさがある。
何もかも愛して、何もかも救いたいっていう優しさが。愛が。それ故に、愛する者を選択しなければならない罪悪感が。
シルナにはあって、鬼頭にはない。
「匿えば、敵を増やすことになると分かっていても。それが自分の命を狙った暗殺者だったとしても。信じて、愛して、命を懸けて守ろうとする。決して見捨てることはしない。お前と違って!」
俺の叫びに。
すぐりが、瞳に涙を滲ませた。
「愛の欠片もない、罪悪感の欠片もないお前なんかと、うちの馬鹿みたいに優しい馬鹿シルナを、一緒にするな!!虫酸が走るんだよ!!」
「…羽久さんの仰る通りです」
イレースだった。
ナジュと天音を守っていたイレースが、真っ直ぐに鬼頭を睨み付けた。
「あなたは、昔の私を見ているようで気持ちが悪い。私も学院長に出会わなければ、あなたのような腐った目をしていたんでしょうね」
…イレース。
「善意の塊のようなこの学院長と、下衆で下劣なあなたを同列に語るなど、片腹痛い。そんなことも分からないなんて、あなたにも老人ホームをおすすめしましょうか?良いところ知ってますよ、私」
…出たよ。
イレースの最終兵器。老人ホーム行き。
「…小僧共が、生意気を」
鬼頭は、殺意のこもった目で俺達を睨み返したが。
それがどうした。
そんなもんがどうしたって言うんだ。
「…お前は、今夜ここで死ね」
これ以上、令月やすぐりのような「被害者」が生まれないように。
この男だけは、今、ここで殺しておかなければならない。
以前会ったときと、何も変わってない。
この男は、シルナなんか可愛いひよこに思えるほどの…最低な糞ジジィだ。
すぐりはずっと必死だった。
生きる為に家族を殺し、生きる為に『アメノミコト』に入り、そこでまた生きる為に人を殺し。
そんな自分の価値を認めてくれるのは、目の前にいるこの卑しい男だけだと信じ続けた。
この男に認められたくて、この男に自分を見て欲しくて、死に物狂いで生きてきた。
令月を越えれば認められる、そう信じて。
今までヴァルシーナ以外、誰も出来なかったことをした。
心に仮面を被って、ナジュの読心魔法を謀ってみせた。
寝返ろうとした『玉響』を殺してまで、自分の忠誠心をこの男に見せつけた。
その為に、自爆まで試みた。
全ては、この男に…鬼頭夜陰に認められる為。
その為だけに生きてきた、すぐりの気持ちを知っていながら。
この男は、ほんの少しだって、すぐりを顧みたりしなかった。
すぐりが血反吐を吐き、苦しみに喘ぎ、それでも必死に伸ばそうとした手を…振り払った。
それどころか、見下ろしてコケにしたのだ。
悪鬼の所業だ。
俺の中に眠る邪神とて、この男の邪悪さには劣るだろう。
「自分を慕う子供ですら…駒としか思ってない、道具としか思ってない。最低最悪の糞野郎だ、お前は!」
「ふん。その言葉、己らの学院長に言ったらどうだ?自分を慕う子供を道具にしようとしているのは、貴様とて同じだろう」
はぁ?
「てめぇみたいな糞を、シルナと一緒にするな!!」
お前の、何処が。
シルナの、何処が。
お前と同じだって言うんだ。ふざけんな。
「シルナにあってお前にないもの、教えてやろうか!愛だよ!罪悪感だよ!シルナは確かに、教え子達を神殺しの生贄にしようとしてるのかもしれない。でもシルナは彼らを愛してる!」
「羽久…」
シルナは、驚いた顔で俺を見つめていた。
なんだ、自覚あったんじゃないのか。
「愛してるが故に葛藤して、愛してるが故に罪悪感を抱いてる!愛する者同士を天秤に掛けて選んだ答えを、その大きな罪を、背負う覚悟がある!」
笑える話だろう?
そんなもんどうでも良い、自分の愛する者だけが救われるなら、他の者なんてどうなっても構わない。
そう思えば楽なのに、そう思えば葛藤する必要もなく、罪悪感を抱くこともないのに。
それすら出来ない、馬鹿みたいな優しさがある。
何もかも愛して、何もかも救いたいっていう優しさが。愛が。それ故に、愛する者を選択しなければならない罪悪感が。
シルナにはあって、鬼頭にはない。
「匿えば、敵を増やすことになると分かっていても。それが自分の命を狙った暗殺者だったとしても。信じて、愛して、命を懸けて守ろうとする。決して見捨てることはしない。お前と違って!」
俺の叫びに。
すぐりが、瞳に涙を滲ませた。
「愛の欠片もない、罪悪感の欠片もないお前なんかと、うちの馬鹿みたいに優しい馬鹿シルナを、一緒にするな!!虫酸が走るんだよ!!」
「…羽久さんの仰る通りです」
イレースだった。
ナジュと天音を守っていたイレースが、真っ直ぐに鬼頭を睨み付けた。
「あなたは、昔の私を見ているようで気持ちが悪い。私も学院長に出会わなければ、あなたのような腐った目をしていたんでしょうね」
…イレース。
「善意の塊のようなこの学院長と、下衆で下劣なあなたを同列に語るなど、片腹痛い。そんなことも分からないなんて、あなたにも老人ホームをおすすめしましょうか?良いところ知ってますよ、私」
…出たよ。
イレースの最終兵器。老人ホーム行き。
「…小僧共が、生意気を」
鬼頭は、殺意のこもった目で俺達を睨み返したが。
それがどうした。
そんなもんがどうしたって言うんだ。
「…お前は、今夜ここで死ね」
これ以上、令月やすぐりのような「被害者」が生まれないように。
この男だけは、今、ここで殺しておかなければならない。