神殺しのクロノスタシスⅢ
これだけの殺気を、飛ばしてやったにも関わらず。

鬼頭夜陰は、少しも動じていなかった。

何処から来るんだ、その自信は…。

「ここで死ぬのは、貴様らの方だ」

鬼頭の、背後から。

気配を消していた黒服の暗殺者達が、ゆらりと姿を見せた。

…あれらも、恐らく。

令月やすぐりと同じく、『終日組』のメンバーなのだろう。

おまけに、体格からして、令月やすぐりとは違って、子供じゃない。大人だ。

いるんじゃないかよ。大人の暗殺者達も。

「あくまで手を下すのはお前じゃなくて、お前の手下って訳か」

自分の教え子達が戦うなら、自分も共に戦うと言って聞かない、シルナを見習ったらどうだ。

何処までも何処までも、虫酸が走る。

自分は手を汚さない。自分は安全なところに突っ立って、命を懸けさせるのは己の部下だけ。

許さない。

許せない。

こいつだけは。

こちらは手負いだ。すぐりは囚われたままだし、令月も本調子とは程遠い。

ナジュは死なないけど死にかけで、天音とイレースは、そのナジュの解毒の為に動けない。

まともに戦えるのは、俺とシルナのみ。

しかもここは、暗殺者達のホームグラウンド。

劣勢なのは分かっている。

だが、やらなければならないことがある。

「…上等だこの野郎。掛かってこい」

劣勢?だからどうした。

そんなことで、俺達の闘志が損なわれると思ったら、大きな間違い…。

しかし。

「に…げ、て」

「!?」

『薄暮』に、身体の自由を奪われたままのすぐりが。

掠れた声で、俺達にそう言った。
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