神殺しのクロノスタシスⅢ
…逃げろ、だと?
 
「すぐり…!何言って、」

「勝て、ない…。『終日組』の…暗殺者、達、には…」

…こいつ。

「『八千代』と…ナジュ、せんせーを連れて…。逃げて…」

「お前…何馬鹿なこと言って」

「おぉ、そうだな。それが良い」

鬼頭夜陰が、名案とばかりに手を打った。

は?

「貴様ら、今すぐ花曇すぐりを置いて、ここから立ち去れ。そうすれば、黒月令月も、貴様らも見逃してやろう。役立たずの『八千歳』の、最期の奉公だ」

…はぁ?

「こちらとて、無為に『終日組』の構成員を失いたくはない。小奴らは、便利な駒だからな」

「…」

「令月を殺せないのは不本意だが、こちらとしては、同じく裏切り者の花曇すぐりと、『玉響』の始末も出来た訳だからな。まぁ、御の字というところだろう」

「…」

…この、糞ボケ老人。

さっきから、何を言ってんだ。

それに。

「逃げて…。俺は…俺はもう、いーから…」

…こっちの馬鹿は、もっと何言ってんだ?

何が良いんだ?お前を見捨てて、俺達だけ逃げることの、何が良いんだ?

「俺のせいで…。誰も傷つけたく、ない…。俺は…人を、殺し過ぎた…。もう良い…。もう死んで…楽に…なり、たい」

死…だと?

「見ろ。花曇すぐりもこう言っている。この役立たずの命一つで、貴様ら全員が助かるのなら、願ったり叶ったりだろう。さぁ、さっさと行け。この役立たずは、儂が殺す」

「…」

『薄暮』に囚われ、十字架にかけられた、瀕死のすぐりの前に。

鬼頭夜陰が立った。

「さぁ、死ね。役立たずの裏切り者」

「…」

すぐりは、何も言わず。

これが自分の運命だとばかりに、目を閉じた。

瞬間。

「馬鹿なんですかねぇ、あなたは」

鬼頭は、すぐりにとどめの一撃を入れることが出来なかった。

鬼頭とすぐりの間に、人影が立った。

「…死にたい、なんて言葉は」

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