神殺しのクロノスタシスⅢ
「ナジュ…せんせー…」

「馬鹿ですかあなたは?たかだか十年とちょっとしか生きてない癖に死にたいとか、馬鹿なんですか?本当は生きていたい癖に、誰よりも生きて償いたいと思ってる癖に、仲間守る為に死にたいとか、アホなんですか?言葉の重量が綿胞子並みで、片腹大激痛なんですけど」

後ろを見ると、天音が毅然として立っていた。

そうか。

解毒、成功したんだな。

良かった。

今、この瞬間。

すぐりに、一番届く言葉を与えられるのは。

誰よりも、生きることと死ぬことの重みを知っている、ナジュだけだから。

「大体、白馬の王子様計画はどうするんですか。秘密のお花畑は何処に作るんですか?」

…何の話?

何の話か分からないけど、ナジュがその話題を口にするや、すぐりの目に生気が宿った。

「好きな女の子置き去りにして、自分だけ地獄に堕ちて楽になろう、なんて…。そんな身勝手、例え神が許そうと、僕は許しませんよ」

ナジュ…お前。

「僕は、あなたが白馬の王子になって、ツキナさんと秘密の花畑に行って、イチャイチャ花冠交換し合ってる姿を盗み見て、そのスケベ心を読んでほくそ笑むまでは、絶対にあなたを殺させない。良いですね?」

…みたいな、余計なことを言うから。

お前の決め台詞は、格好がつかないんだよ。

お前の方が、余程スケベ心満載じゃん。

「当たり前でしょう!僕は煩悩の塊ですよ。僕の前世に賭けて!」

お前の前世は何なんだよ。

そして、復活早々人の心を読むな。

「あなたみたいな子供が、一丁前に死にたいだなんて贅沢言うのは、一万年早いんですよ」

お前も一万年生きてないだろ。

その理論で行くと、お前もあと数千年は死にたいなんて贅沢言えな、

「僕は良いんですよ!」

暴論。

「とにかく!僕にも学院長にも誰にも、あなた見捨てて逃げるつもりなんて、小指の先ほどもないんですから。逃げろなんて無駄なこと言ってる暇があったら、生きて帰ることを考えるんですね」

「…生きて…」

「そう、生きて帰って。そんでもって夏になったら、ツキナさんと焼きとうもろこし食べるんでしょう。良いですね、絶対死ぬんじゃないですよ」

すぐりは。

ナジュの言葉に、涙を滲ませて頷いた。

よし。

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