神殺しのクロノスタシスⅢ
「…勝手に言ってるようだが、『八千歳』の身体はこちらのものだと忘れたか?」

鬼頭夜陰の、蛇のような声が聞こえるなり。

「いっ…ぎ…!」

すぐりの身体が、操り人形のごとく吊り上げられた。

そうだ。

まずはすぐりの拘束を解かないと、こちらが自由に動けな、

「あ、それなら簡単ですよ」

ナジュが、すぐりの頭の上をひょいっ、と飛び越えた。

すぐりの後ろで操っていた『薄暮』が、臨戦態勢に入った。

簡単って。そりゃ操ってる『薄暮』を倒せれば解放されるんだろうが。

その女も『終日組』で、そう簡単に倒せる相手では…。

「あなたの相手なんかする訳ないでしよ。ばーか」

風の刃を左腕に纏ったナジュは。

すぐりと、『薄暮』の間。

何もないはずの、無の空間を「断ち切った」。

瞬間、すぐりの身体は、糸が切れたように崩れ落ちた。

「よいしょっ、と」

そのすぐりを、ナジュが受け止めた。

…!?

俺達だけでなく、『薄暮』も驚愕していた。

「あなたは、すぐりさんの中に仕込んだ『見えない糸』ですぐりさんを操っていた。そして、空間魔法で『見えない糸』を異空間に隠した。隠し場所は自分しか知らないと、内心ほくそ笑んでいたみたいですが」

ナジュは、最高に素敵な笑顔で『薄暮』に向き直った。

「丸見えですよ、心の中。道案内ありがとうございました」

「…!!貴様!」

…これは。

味方ながら、なんかムカつくから。

『薄暮』からしたら、めちゃくちゃムカついただろうな。

「何故!?私は心に仮面を…!心の裏側に隠していたはずだ!貴様の読心魔法では…」

「情報古いですね。それ、昔の僕ですから。今の僕は雪辱を晴らす為、心の仮面を引っ剥がす、スーパーナジュになったので。幸い、悶絶している間に時間はたっぷりありましたからね」

…お前。

息出来なくなって死にかけてた(死なないけど)とき、『薄暮』の心の仮面を引っ剥がして、その裏側を読んでいたのか?

窒息死寸前の苦しみを味わい続けながら?

「僕ほど何回も死んでるとね、死に方も器用になるって言うか…。ただでは死なん!って感じになるんですよ。まぁ、声は出なかったので、教えてあげられなくて残念でしたが」

と、早速読心魔法全開のナジュ。

「そんなもん器用になるなよ…」

これはこれで、人外生物と化してきているナジュに。

俺は、力なくそう返すのが精一杯だった。
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