神殺しのクロノスタシスⅢ
次に、目が覚めたとき。

目の前で、ガキンッ!!と金属音が迸った。

「…!?」

「何やってんの、羽久せんせー!」

すぐりだった。

すぐりが、俺を振り向いて叱咤した。

そして、理解した。

先程の音の正体。

すぐりの黒いワイヤーが、水色の手裏剣を弾く音だったのだ。

つまり、すぐりが助太刀に入ってくれてなければ。

今頃、俺はあの手裏剣で殺されていた。

…っぶねぇ…。

「戦場で余裕ぶちかまして突っ立ってるとか、そんな悠長してる場合!?」

「っ、悪かっ…たって、お前身体は!?」

さっきまでお前、あの『薄暮』って奴に、散々身体を壊されて…。

「天音せんせーに治してもらったよ」

「だからって、あんな大怪我を、こんな短時間で治すのは…」

いくら回復魔法に長けた天音でも、それは無理だ。

毒は浴びていなかったが、それでもこの短い時間で、完治はしない。

だから今すぐりが立っていられるのは、ナジュのときと同じく。

完治したのではなく、外面だけ傷を塞いで、止血と応急処置を済ませただけに過ぎない。

それに。

あの悪徳糞ジジィに言われた言葉の傷は、天音の回復魔法でも治せない…。

それなのに、すぐりは涼しい顔をして、そこに立っていた。

黒いワイヤーを二本と、両手に糸を絡みつけ、臨戦態勢で。

「心配してくれるのは有り難いけどねー、俺、そんなにヤワじゃないから」

「すぐり…」

「泣くのも嘆くのも、帰ってからだよ。そして帰る為には、まず目の前の敵に勝たなきゃならない。そうでしょ?」

…全く。

教師である俺が、生徒に教えられるとはな。

仰る通りだ。

…ん?目の前の敵?

俺は思い出して、すぐりに尋ねた。

「すぐり!ヴァルシーナは?」

「ヴァルシーナ…?」

あぁ、すぐりはヴァルシーナに会ったことはないんだったか?

「水色の他に、ここに女がいなかったか」

「女…?俺が駆けつけたときは、水色が羽久せんせーを襲おうとしてただけで…。他の人は見てないけど?」

「…!」

…あの女。

すぐりが介入してくると見て、すぐ逃げ出したか。

あくまで、自分は戦うつもりはない?

それとも、狙いは俺ではなく、シルナだけなのか?

相変わらず、あの女の意図が読めないが…。

あいつ、去り際に何か…。

「羽久せんせー、来るよ!」

「!…あぁ!」

考えている暇はない。

すぐりの言う通り、今は目の前の敵に集中しなければ。

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