神殺しのクロノスタシスⅢ
向こうはヴァルシーナが減って、こちらはすぐりが加わり。

2対1で、一気にこちらの形勢が有利になったが。

忘れてはいけない。すぐりは平静を装ってはいるが、まだ手負いの身。

そして敵の水色は、未だ無傷でピンピンしているのだ。

舐めてかかって良い相手じゃない。

さて、どう戦術を練ったものか…。

すると。

「羽久せんせー」

「どうした?」

すぐりが、両手に糸を絡ませながら言った。

「あの水色、羽久せんせーの時魔法を警戒しまくってるからさぁ。やっぱりあれは、不意をつかないと水色には通らないと思うんだ」

「だろうな」

「そこで、提案があるんだけど」

提案だと?

「とりま、羽久せんせー。俺の指示に従ってくれないかなー」

「…お前の?」

「あー、やっぱり嫌?元暗殺者で、生徒の身分の俺が、羽久せんせーに指示するのは、」

「馬鹿。誰がそんなことを言った」

この場に立っている以上。

教師だろうが生徒だろうが、同じ戦士だ。

背中を預けるに値する戦士。

「それより、お前が無理をするんじゃないかってことの方が心配だ。どうせ、自分にばっか負担かかる作戦なんだろ」

「と〜んでもない。俺がそんなに自己犠牲精神に満ち溢れてるように見える?」

見えるから言ってるんだろ。

「良いから、その作戦とやらを説明しろ」

「まず俺達が二手に分かれてー。俺の方に誘導を、」

「却下」

「はやっ!やっぱり俺の作戦に従うの嫌なんじゃん」

そうじゃない。

「誘導するなら、俺の方にしろ。自分の怪我の具合も分からないのか」

二手に分かれるところまでは、俺も賛成だ。

あの手裏剣使い水色、向こうから近づいてくれることはないからな。

先程と同じく、あくまで俺とは距離を保とうとするはず。

すぐりが加わったのだから、尚の事慎重になるはずだ。

おまけに、向こうにとっては、自分が逃げ回るようにして戦えば、時間稼ぎにもなる。

水色が時間を稼げば稼ぐほど、他のレインボー暗殺者と戦っているであろうシルナ達との合流を、妨げることが出来る。

だから、あくまで水色は逃げ回る。

俺達は、逃げ回る水色を、何とかして捕まえなければならないのだ。 

鬼ごっこだ。

不定期に飛んでくる、毒付き手裏剣を避けながらの、な。

なんて嫌な鬼ごっこだ。

だが。

こちらは二人で、水色は一人。

数の有利を活かせば、逃げ回る水色を追い込むことも出来るはず。

だから、二手に分かれるのは賛成。

しかし、敵を誘導し、囮になるのは俺だ。

「お前はサポートに回れ。その手負いの身体で…」

「いや、だからさー…。ちょっと話聞いてよ」

「お前生徒だぞ。教師の言うこと聞け」

「…こーいうときに権力出してくるの、嫌な大人だなぁ」

何とでも言え。

同じ戦士ではあるが、それでもお前は生徒だ。
 
生徒を守るのは教師の役目だろ。

何で、敢えて危険な役目を、生徒に押し付けなければならないのだ。

「じゃあ聞くけどね、羽久せんせー、俺みたいに糸出せるの?」

「…」

「誘導した先に罠張って、俺の糸で絡め取るつもりなんだけど。羽久せんせーに出来る?」

「…」

「ね〜?出来ないでしょ?分かったら、俺の指示通りに動いてよ」

…この、クソガキめ。

「…分かった」

「宜しく〜」

「だがな、覚えとけよ、すぐり」

「…?何を?」

「お前が上級生になって、時魔法の授業が開講されたら、授業中、集中的にお前にばっかり当ててやる」

「…!何それ、その汚い大人の権力を振り翳す感じの…!」

うるせぇ。

そんな訳で、時魔法の授業が開講されたら、真っ先にお前を質問攻めにする予定だから。

「絶対死ぬなよ」

「そっちこそ」

言ったな?

こちとら、汚く権力振り翳す嫌な大人を、何百年とやってる訳じゃないんだってことを。

生まれて十年と数年のちびっ子に、見せつけてやる。

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