神殺しのクロノスタシスⅢ
「…!?」

鬱蒼とした木立ちの間を抜けた先。

木を足場に逃げ回っていた水色は、ようやく地面に降り立った。

足場にする木が、一本もなくなっていたからだ。

見渡す限り雑木林だった森の中の、ほんの一部。

その一帯だけが、まるで禿げたように開けていた。

刈り取られた切り株だけが残っている、見晴らしの良い開けた場所。

暗殺者にとっては、不利な戦場。

そして、そこは。

…終着点だ。

「やぁ、お帰り」

そこに待っていたのは、すぐりである。

すぐりが、切り株の上に立って待っていた。

「貴様…!この死に損ないが…!」

水色が、すぐりを見て呪詛のような呻きを漏らした。
 
「その死に損ないに、君は殺されるんだよ。残念だったね〜」

「ほざけ!役立たずの裏切り者が!!」

その暴言に、俺がイラッとしたと同時に。

すぐりは、背中の黒いワイヤーを二本、展開した。

「そんなものが…!」

強がりを口走った水色は、切り株を蹴って空中に飛び。

懐に潜ませていた小刀を取り、すぐりに肉薄しようとした。

…が。

「役立たずの後輩から、先輩に一つアドバイス」

「!?」

水色は、すぐりに近づくことが出来なかった。

水色が飛び出した空中。丁度ピンポイントの位置に。

細く、透明な糸が張られていた。

「足元には、注意した方が良いよ?」

「…!」

すぐりを舐めず、侮らず、冷静に状況を分析し。

すぐりの能力を、ちゃんと評価していたなら。

そんなトラップには、引っ掛からなかっただろう。

しかし水色は、すぐりを舐めていた。侮っていた。

どうせ死に損ないで、役立たずのすぐりに、何か出来るはずがないと、そうたかを括っていた。

だから、そんな下らない罠にハマるのだ。

「ぐっ…!」

「…ごめんね」

空中で、落とされた鳥のようにバランスを崩す水色を。

すかさず、すぐりの黒いワイヤーが、雁字搦めにした。

水色は抵抗しようとしたが、あのワイヤーの硬さと強度は、俺達も身を以てよく知っている。

あくまで魔法で作った武器だから、あのワイヤーには毒も通じない。

そして。

「羽久せんせー」

「分かってる」

「…!?」

ワイヤーに雁字搦めにされた、憐れな水色に。

ここぞとばかりに、俺は時魔法で超加速をかけ。

動けない水色に、とどめを刺した。
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