神殺しのクロノスタシスⅢ
更に、ナジュが、さらさらと何かを書き付けたメモを、追加で渡してきた。

『何となくおかしい?とは思ってたんですよ。本物の心じゃなくて、用意された心を読まされてるような…。でも心に仮面を被ってる訳じゃなかった上に、他の暗殺者達の読心に集中してたので、僕も気づいたのは、ついさっきだったんです。』

「…そうか」

無理もない。

こいつは、あくまで本心のつもりだった。心に仮面を被ってもいなかった。

洗脳で、「自分は鬼頭夜陰である」と思い込んでいたのだ。

あの緊迫した状況で、複数人に読心魔法を使わなければならない状況で。

自分は動くつもりはなく、ただでんとそこに構えているだけの、鬼頭の心の中を、集中して読む必要はなかった。

あの時点で、鬼頭の読心優先度は、低かった。

それより、あのレインボー集団の読心だけで精一杯だったはず。

それにナジュは、毒を食らってしばらく窒息死寸前だった訳だし…。

『もっと注意してれば良かったですね。済みません。』

ナジュが、そう書かれた三枚目の追加メモを差し出してきた。

が、俺はそれを押し戻した。

アホか。

「お前は充分やってくれた。このことでお前に文句つける奴は、俺が蹴っ飛ばしてやる」

「…」

何間抜けな顔してんだ、馬鹿ナジュ。

周囲を見渡してみろ。

「お前があの鬼頭を影武者だと見抜けていれば…」なんて、お前を責めてる奴はいないだろ。

「大体、あれが影武者だろうと本人だろうと、戦わなければならないのに変わりはなかったんです。結局、同じことになりましたよ」

「そうだね。逃してくれる雰囲気でもなかったし。むしろ、貴重な敵の『終日組』の構成員を減らせたことを、喜ぶべきじゃないかな」

と、イレースとシルナ。

ほらな?

「僕は最初から、これ影武者かもって覚悟してたから、何とも思ってないよ」

「…まー、これが頭領のやり口だからね。いつも通り過ぎて、むしろ安心した」

令月とすぐりも。

そして。

「影武者でも何でも良い」

天音だった。

天音が、ナジュの肩に手を触れた。

「君も、皆も、無事で良かった。誰も死なずに済んだ。それ以上に大事なことが、他にある?」

「…」

…全くだな。

俺達は、『終日組』の暗殺者相手に、一人の死者も出さずに勝ち残ったのた。

それ以上に、大事なことはない。

ほっと一安心した、

そのときだった。

首を切断された、鬼頭夜陰の影武者が。

いきなり、ガクガクと痙攣を始めた。

「…!?何だ?」

「首を切られて、まだ生きてるんですか?」

「…いや、これは生きてるんじゃなくて…。…まさか!」

令月が叫んだ、そのとき。

ナジュが、身を挺して影武者の亡骸にしがみつき。

そのまま、シュンッ、と音を立てて何処かに消えた。

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