神殺しのクロノスタシスⅢ
鬼教官の正体は、まぁいつも通りイレースなんだけど。

妖怪むーむーおばけの正体は、誰か。

ナジュである。

で、何故ナジュがむーむーおばけと化しているのかというと。

まぁ、イレースがここにいるということは多分…。

ナジュは俺を見るなり、紙とペンにさらさらと何かを書きつけて、こちらに見せてきた。

『イレースさんに口縫われました。』

とのこと。

やはりな。

比喩じゃないぞ。本当に縫われてる。

なんか呪われた人形みたいに、赤い糸で上下の唇を縫い合わされている。

これは酷い。拷問である。

更に、ナジュが追記。

『助けてください。』

切実だな。

「大袈裟な。ちゃんと麻酔を打ってあげたでしょう」

と、無慈悲なイレース。

だが、本人は充分慈悲をかけたつもりらしく。

「元々は、麻酔無しでやろうと思ってたんですけど、天音さんが武士の情けでと頭を下げてくるから、彼の顔を立てて麻酔を打ってあげたんです。感謝してもらいたいですね」

そうなんだ。

イレース、麻酔無しでナジュの口縫おうとしてたんだ。

こえぇ…。

「ってことは…痛みはそれほどでもないんだな?」

こくり、と頷くナジュ。

ふーん、そうか。

「…じゃあそのままでいろ!」

「!!」

ガーン!みたいな顔になるナジュ・アンブローシア。

イレース、よくやった。

俺もな、こいつが復帰したら、またぶん殴るか何かしてやろうと思ってたんだよ。

代わりにイレースがやってくれて、助かった。

2、3日この状態で、黙らせておいてやれ。

謝罪も弁解も言い訳も聞かん。

黙って反省しとけ。

そういう意味では、口を縫い合わせて物理的に黙らせるという、イレースの荒業。

これは、大変効果的である。

シルナはナジュが可哀想なのか、気の毒なのか。

何とか俺とイレースを宥めようと、あわあわしてるようだったが。

譲るつもりはない。

こいつの犯した罪を思えば、当然のことである。
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