神殺しのクロノスタシスⅢ
「…何なんでしょうね、頭領様直々の勅命って」

「…」

薄暗い廊下を歩きながら、「同僚」が呟いた。

独り言なら、邪魔するつもりはないが。

もし、俺に問い掛けているのなら。

「…最近、派遣された中隊の一つが壊滅させられたって…。頭領様が率いていたのに…。あの噂はもしかして、本当、」

それ以上、「同僚」は口を開くことが出来なかった。

俺の「糸」が、彼の喉元を掻き切ろうとしていたからだ。

「…お喋りが過ぎるね、『玉響(たまゆら)』」

俺は、「同僚」の名前を呼んだ。

「俺達は実行部隊。頭領様の命令を、ただ忠実に果たせば良い。目的も、標的も関係ない。俺達の役目を忘れるなよ」

「…分かって、ますよ」

『玉響』は、怯えた声で答えた。

そう。

分かっているなら良い。

俺達は、命じられた通り、頭領様の部屋を訪ねた。

この館は、さながら秘密箱だ。

正しい手順で、正しい道を、正しい歩数で歩かなければ、頭領様の部屋には辿り着けない。

そしてその「道順」を教えられているのは、頭領様直下の親衛隊達のみ。

そう、俺達のような…。

「…頭領様、ご命令により参上しました」

「…」

招かれたその部屋に、足を一歩踏み入れるなり。

俺と『玉響』は、額が床に着くほどに深々と、頭を下げた。

頭を下げているから、頭領様のお顔は分からない。

だが、部屋に広がる、殺気立った刺々しい空気。

成程。

ただ事ではない何かが起きたらしい。

まぁ、そうでもなければ、親衛隊である俺達が呼ばれることはないか。

「…ご用命は」

「…」

俺が尋ねると、頭領様は重々しく、その口を開いた。

その言葉が、俺の頭を思い切り殴り付けた。

「…『八千代(やちよ)』が、裏切った」
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